ベトナム イエンバイ省
ハノイから北西に車で4時間ほどの場所にあるイエンバイ省ヴァン・チャン県。住民の約90%が少数民族で、貧困率は18%と他地域と比較しても高く、伝統的に児童婚や早期出産が多い地域です。クネクネした山道を何時間も上り、辿り着いた村の高校で、「性と生殖に関する啓発イベント」が開催されていました。
イベントには15~18歳の全校生徒約1,000人が参加。ワークショップや第一三共ベトナムの社員による講演が行われた他、代表生徒100人による「性と生殖に関するクイズ勝ち抜き大会」が実施されました。
「女性は月経の時に、ナプキンが何枚必要でしょうか」
「HIVになる原因を3つ挙げてください」
などのクイズに、生徒たちは次々と回答していきます。
岡原:難易度の高い問題もあったのですが、正答率が高く驚きました。日本だと性に関する話題を避けたり恥ずかしがる文化がありますが、ベトナムの生徒たちはオープンに楽しそうに話していて、性について学ぶことは自然で当たり前だという文化が醸成され始めていたのは、かなりの驚きでした。
張:生徒たちは今どきの子どもで、全員スマホを持っていました。私たちは、その子どもたちの保護者の集まりにも参加しました。お医者さんが思春期の行動や特徴について、自分たちの経験に照らし合わせながら説明した後、どのように性や生殖について子どもに教育すべきかを議論していました。若い親が多く、デリケートな話題だけに、最初は恥ずかしがっていましたが、だんだん議論が盛り上がってきて、最後の方は楽しそうに議論している姿がとても印象的でしたね。
クイズ大会に参加する学生たち
プロジェクトの背景について語る岡原さん
第一三共は、「医療アクセスの拡大」を製薬会社の重要な使命の一つと考え、地域医療基盤の強化や開発途上国における医療インフラの整備などの課題を解決するために、様々な取り組みを推進しています。その中で、2023年からベトナムにおける思春期の性と生殖の健康サービス改善プロジェクトをスタート。
岡原:様々な国や地域で課題解決のためのプロジェクトが候補に挙がる中で、早期妊娠・出産を予防し母子の健康を守るために本プロジェクトをスタートさせました。また、豊富な経験・実績を持っている国際NGOセーブ・ザ・チルドレンとの協働プロジェクトであった点も、選定の理由の一つでした。
そう語る、プロジェクトの主担当としてNGOとの窓口も担う岡原さん。
一方の張さんは、普段はESG関連の情報開示の業務に携わっています。
張:当社の活動を発信するのが私の役割ですが、普段から現場を経験した上で情報発信をすることの必要性を強く感じていました。私たち製薬会社がいくら革新的な医薬品を創出しても、患者さんに届かなければ意味がありません。地理的、社会的要因で医療へのアクセスが悪く、医薬品が届かない地域の状況を、直接自分の目で確認してみたいと思い、本プロジェクトの事業地訪問に参加しました。
ベトナムは、開発途上国の中では医療へのアクセスが比較的進んでいますが、都市部と地方でかなり差があります。地方では病院が整っておらず、病院に行くという文化自体が根付いていない地域も多いそうです。
それでも、実際に現地を訪れてみると、楽しそうに性と生殖の知識について学ぶ子どもたちや保護者の姿がありました。プロジェクトがスタートして間もないにも関わらず、順調に進捗している要因は何でしょうか。
張:パンフレットなどの研修資料が、性と生殖に関する理解が低い人にも分かりやすいように、イラストを多用しながらとても工夫して作られています。そうしたツールが、医療機関に設置されていて誰でも入手できるので、知識を得ることに役立っていると思います。
岡原:このプロジェクトでは主に思春期の子どもたちにアプローチしていますが、保護者や教員の方々にも教育を行っているので、地域全体でうまく底上げが図られています。セーブ・ザ・チルドレンは他の国や地域でも性教育の実績があるので、そのノウハウが活かされていると思います。
地域差や衛生面で課題。フィードバックにより改善につなげる
現状の課題について語る張さん
ただもちろん、いくつかの課題も確認できました。
岡原:地方に行くと、医師や看護師が限られた人数で多くの業務を行っている病院や、薬の管理が徹底されていないと感じる病院があり衝撃を受けました。
張:特に、性と生殖に関しては、衛生が大事だと思いますが、診察室などは衛生面で課題がありました。また、プライバシーが守られていないなど患者さんへの配慮も十分ではありません。課題はたくさんあると思います。
今回感じた課題については、最終日にセーブ・ザ・チルドレンとのフィードバックミーティングで、改善に向けて取り組んでいくことを確認しています。
張:こうした取り組みは1回や2回で終わるものではなく、やはり継続していくことが大事だと感じました。また、取り組みが根付くかどうかは、現地の文化や歴史とも深く関わってくるので、現地の方々との信頼関係を構築することが大事だとも感じました。
岡原:今回の訪問には政府関係者の方も参加されていて、青少年にアプローチすることの重要性をお話されていました。ベトナム・イェンバイ省は親戚同士、大家族で一緒に住む文化があるので、子どもたちに情報を伝えることで、親やその周囲の人にも情報が伝わっていきます。つまり、青少年がインフルエンサーになり得るのです。青少年にアプローチすることで、この事業が私たちの手を離れた後も持続可能に進んでいけるだろうと確認できたことは、大きな収穫となりました。
パーパスを体感。第一三共の“誇り”を胸に、この経験を活かす
ベトナムから帰国した張さん、岡原さんには、ある心境の変化があったようです。
張:マインドセットに変化があったと思います。私は現在の仕事の中で、当社のパーパスを様々な切り口で語ってきましたが、実際にそこに生きる人の表情や、医薬品への希望を自分の目で見たことで、当社の事業や自分の業務を通じて、本気で世界中の患者さんに貢献したいという想いが強くなりました。
岡原:当社は、事業を通じて社会に貢献するとともに、それだけでは解決できない課題に対しても様々な取り組みを行ってきました。今回、医療へのアクセスが十分ではない地域の現状を実際に見て、双方の取り組みの重要性を改めて実感しました。
思いがけず、二人から出た共通のキーワード。それは、「誇り」。
岡原:私が第一三共に入社した理由は、お会いした社員の方が皆、謙虚ながらも会社や仕事に対して大きな誇りを持って働いていると感じたからでした。こういう方々と一緒に仕事がしたいし、自分も誇りをもって働きたいと思い、入社しました。
本プロジェクトをはじめ多くの社会貢献活動を通じて、私自身が第一三共の事業・仕事に誇りを感じたように、このような活動を多くの皆さんに知っていただき、誇りに繋げていきたいと思いました。
張:第一三共には、DNAレベルで受け継がれてきたサイエンス&テクノロジーがあり、幅広い製品・技術で社会に貢献することで誇りが生まれたのだと思います。今、第一三共がグローバルにプレゼンスを拡大していく中で、グローバル人材として会社の成長をサポートできるよう、自分自身も成長していきたいと思います。