10月の乳がん月間のイベントで更新するプロジェクト地域の女性グループメンバー

がん検診を地域に根付かせ、予防や早期発見の重要性認識の向上を図る ~ネパールで乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンププロジェクトを開始~

2021年12月22日
Sustainability
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先進国を中心に世界の死因の上位にある「がん」。近年では、開発途上国でもがんの死亡率が上昇してきました。こうした中、グローバルな医療アクセス課題の一つでもあるがん領域に積極的に取り組む第一三共は、特定非営利活動法人AMDA社会開発機構(本部:岡山県岡山市/以下AMDA-MINDS)と協働して、ネパールで「乳がん・子宮頸がんのスクリーニングキャンプ(がん検診サービスとがんの早期発見の啓発活動)プロジェクト」を推進しています。AMDA-MINDSとの出会い、現地の活動の様子や地域の将来像などについて、本プロジェクトの関係者にお話を伺いました。

プロジェクトを展開しているカトマンズの街並み

タイミングと想いが合致してスタートラインに

AMDA-MINDSと第一三共のつながりは2019年夏、横浜市で開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD 7)の会場に出展していたAMDA-MINDSのブースを、山本さんが訪れたことがきっかけでした。第一三共は以前から、開発途上国の医療アクセス拡大施策を行ってきましたが、当時実施していたタンザニアでの母子保健プロジェクトが終了する時期であったので、次に続くアフリカでのプロジェクトを検討していました。

山本(第一三共)ブースで対応していた山上さんに当社の考えやプロジェクトの方向性などについてお伝えしました。アフリカに限らずさまざまなご提案の中に、ネパールでの乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンプのお話がありました。社会的な要請が高く、現地からの要望も強い課題の解決につながること、そしてがん領域への貢献を進めている当社としては、これだなと思い、思い切って進めてみることにしました。

 

ネパールでは、乳がん・子宮頸がんの定期検診や予防・早期発見の重要性が定着していないこともあり、がん検診の受診率が低く、受診した時には既にがんが進行しているケースも少なくありません。ネパールの女性のがんによる死亡者数の3割が乳がん・子宮頸がんであり、早期発見・早期治療に結びつける施策が求められてきました。

 

現地の民族衣装の小林さん

小林(AMDA-MINDS)現地NGOであるAMDAネパール支部は、事務所のある行政区から、「女性の健康に資する活動を実施してほしい」との依頼を受けて、乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンプのパイロットプロジェクトを2020年1月から自己資金で運営していました。しかし、行政からの予算措置もつかないまま、この先どうしようかと考えていた時、第一三共から奇跡のようなタイミングでお話をいただきました。開発途上国でのがん領域等の非感染症対策プロジェクトは、ニーズがあるもののまだ一般的ではありませんでしたが、お互いの意志がマッチしたことで、既存サービスを拡大させる形でスタートを切ることができたのです。

スクリーニングキャンプで検診を受ける地域住民

がん検診の定着と予防・早期発見の重要性認識の向上を目指して

2021年1月、ネパール・カトマンズ郡ゴカルネシュワル地区の女性たちを対象に、乳がん・子宮頸がん検診サービスとがんの早期発見の重要性認識向上の啓発活動を柱とするスクリーニングキャンププロジェクトが正式に始まりました。まずはマンモグラフィや超音波検査、コルポスコープ(膣鏡)といった機器を整備し、地区内の診療所の医療従事者への検診研修も実施。これまでに14回、計700人の女性が検診を受け*1、異常が見つかった場合には専門の医療機関を紹介しました。

*1: 2021年11月現在

保守的な土地柄のネパールで、女性たちに検診の大切さを理解してもらい、実際に検診に来てもらえるようになるまでには、さまざまなハードルがあります。AMDA-MINDは地域の女性に寄り添いながらきめ細かく対応しています。

 

子どもたちと触れ合う奥田さん

奥田(AMDA-MINDS)検診の案内は、地域にいる111人の地域保健ボランティアの女性が個別訪問しながら行っています。夫から止められたりすることもありますが、こまめにアプローチして説得しています。検診を受けたある女性は「5か月間胸の痛みがあって気になっていたが、検診を受けて本当に良かった」と言っていました。

 

 

検診の必要性に気づいてもらうために、地域の母親・女性グループに対してプロジェクトスタッフが予防や早期発見の重要性、治療についての啓発活動も行っています。10月の乳がん啓発月間イベントで乳がんサバイバーの方に話してもらったところ、体験談を聞けて良かったと好評でした。

 

奥田:ネパールの人たちにとって、診療所へ行くのは病気になってからであり、体調が悪くないのに、早期発見のために診療所で検査を受けるという考え方はまだあまり浸透していません。それを変えていくのも、このプロジェクトの大切なポイントの一つです。一方で、せっかく検診に行っても話をよく聞いてもらえず、すぐに終わってしまったという印象をもったために、検診の質に対して不信感を抱いてしまう人も少なくありません。スクリーニングキャンプでは、きちんと問診をし、スクリーニング結果をもとにアドバイスするための十分な時間を取るようにしています。

予防・早期発見の重要性の認識が高まり、生きがいも増えて

プロジェクト開始から10か月余。現地ではがん検診に限らず、自分の健康を守ろう、病気を予防しよう、早く病気を発見しようという意識が高まってきています。さらに、本プロジェクトは、プロジェクト運営を手伝う現地の地域保健ボランティアの皆さんの日常にも彩りを与えているようです。

 

奥田:乳がん啓発月間のイベントに参加したら、あるボランティアさんから『あなたに会いたかったの!この事業に関われて良かった』と言ってもらったのです。プロジェクトに関わることが生きがいにつながっているとすれば嬉しいですね。

 

本プロジェクトは、2023年までの3年計画です。小林さんは、プロジェクトの成功に向けて2つのポイントを挙げました。

 

小林女性の地位が低く、抑圧されている社会にあって、女性自身の健康意識を変えるアプローチをどのように工夫できるかがカギになると思います。地域保健ボランティアを通じて、バラエティに富んだ啓発活動をしていきますが、男性や子ども、青少年層も参加するようなイベントの中で開催するなど、多様な人々が集まりやすくなる形で企画したいですね。
さらに、2年目以降は行政も巻き込むことで、プロジェクト終了後も公立の診療所がスクリーニングキャンプを継続できる体制を整えます。行政も巻き込みながら医師以外の医療従事者も検査できる技能を学べる活動も考えていきたいです。

 

開発途上国での医療インフラ整備には、それぞれの地域が主体となって運営できるよう支援するアプローチが重要です。

 

現地の人々が主役と語る山上さん

山上(AMDA-MINDS)このプロジェクトはいずれ、地域行政やボランティアが担っていくので、われわれはその背中を押すための、いわば黒衣のような存在です。プロジェクトが終了してからが本当の始まりとも言えます。あくまで現地の人々が主役であり、彼ら自身の力で活動を進めていくのをサポートするのがわれわれの得意分野です。がんを含む非感染症は途上国の死亡原因として感染症より多くなってきており、この経験は他の国のプロジェクトにも波及効果を及ぼしていくと思います。

予防・早期発見意識の向上、検診、早期発見、死亡率低下の好循環を作り出すために

公衆衛生、教育、所得格差といったさまざまな社会的な要因で十分な医療を受けられないことや、アンメットメディカルニーズ(未充足な医療ニーズ)がまだ多く存在することは、健康と医療に関する世界的な社会課題と見なされています。第一三共は医療アクセスの拡大を製薬企業としての重要な使命の一つと捉え、医療アクセスポリシーに沿って「研究開発の促進」「医薬品アクセスの向上」「地域医療基盤の強化」という3つの柱で、医療アクセス改善プロジェクトを進めています。

 

 

山本地域医療開発では、インフラ整備やキャパシティビルディング、人材不足の解決に向けてその地域の持てる資源を使って活動するという考えのもと、プロジェクトを進めています。ネパールのプロジェクトでは、マンモグラフィの導入、市民の予防・検診啓発活動に使う教材の製作、地域保健ボランティアへの教育などを行い、地域住民の誰もが予防・検診の重要性を意識することにつなげてほしいと考えています。そして、このプロジェクト終了時には検診率の向上、早期発見、死亡率の低下という循環が、この地域の人たちの手によって維持される体制が整うことを期待し、見守っていきたいです。

 

 

第一三共の高橋さんと川上さんも、このように呼応します。

 

高橋「革新的な医薬品」を創出しても、医療基盤がなければ、その医薬品を必要とする患者さんへ届けることはできません。これからも地域のニーズに応え、私たちのパーパスである「世界中の人々の健康で豊かな生活への貢献」を実現していきたいです。

 

川上第一三共は今、がん領域に舵を切っていますが、これまで取り組んできた母子保健*2も含めて、がん領域以外も考慮しながら医療アクセス改善ニーズに応えられるよう引き続き取り組んでいきます。ESGへの対応が求められている中、私たちができることは何かを見極めながらタイムリーに取り組んでいきたいですね。

 

世界の医療アクセス拡大に貢献する、各地域でのプロジェクトの今後の成果にご注目下さい。





 
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<AMDA-MINDSについて>
AMDA-MINDSは、国際緊急災害・医療支援で知られるAMDAグループの中で中長期の社会開発活動に専門性を持つ団体として、2007年に設立。現在、アジアやアフリカ、中南米で約100名のスタッフが保健、水と衛生、生計向上、農業、青少年育成などに取り組むとともに、日本国内でも国際理解教育や企業との連携を通じた社会教育プロジェクトを推進しています。


<お話を伺った方々>
特定非営利活動法人AMDA社会開発機構     
海外事業運営本部 連携推進チーム長 山上正道さん      
海外事業運営本部 プログラムコーディネーター 小林麻衣子さん                  
ネパール事務所 事業統括 奥田鹿恵子さん

第一三共株式会社
サステナビリティ推進部 川上勝浩さん、山本潤さん、高橋佳菜子さん

*2:第一三共の母子保健活動
タンザニア移動診療サービス
中国における保険医療人材の育成ならびに保護者の能力強化
ミャンマー医療診療サービス など
 
トップの写真:10月の乳がん啓発月間で行進するプロジェクト地域の母親グループメンバー(AMDA-MINDS撮影)

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