トラネキサム酸の前身であるイプシロンと発売当時のトランサミンカプセル、トラネキサム酸を含む第一三共ヘルスケア製品

さまざまな病の止血に適応する革新的医薬品。世界初の抗プラスミン剤「イプシロン」誕生と発展の物語New

2024年07月10日
Our People & Culture
Share

1953年に市販の総合ビタミン剤「ビタベビー」(ビタベビーに関するHistoryはこちら)を発売した、第一三共の前身のひとつ、第一製薬。翌年には以前販売した結核化学療法剤「イスコチン」よりも治療効果を上げた「ネオ・イスコチン」(IHMS)をはじめ、様々な新薬を世に送り出しました。(イスコチンをはじめとして、結核治療薬開発Historyはこちら)中でも大きな意義をもっていたのが、止血の作用がある世界初の抗プラスミン剤「イプシロン」です。しかし、それが日の目を浴びるまでには長い道のりがありました。

血液を固める体内物質と同じ働きをする「イプシロン」

プラスミンは、凝固した血液を再び溶かす作用をもつ繊維素溶解酵素です。血液が固まるとき、繊維素原というタンパク質が繊維素に変化することは以前から知られていました。1940年には、出血が止まらなくなる原因のひとつが繊維素原を分解する酵素「プラスミン」の作用だということが明らかに。後に、それを抑制する物質「抗プラスミン」が体内に存在していることも判明しました。

そこで、抗プラスミンと同じ作用をもつ薬を人工的に合成すれば出血を防げるのではないかと考えた慶応大学医学部講師(当時)・岡本彰祐博士らが、1947年に実験を開始。数百の化合物を合成し、その中で最も抗プラスミン作用の強いε(イプシロン)-アミノカプロン酸を取り出しました。第一製薬ではこの成果に基づいて製品化の研究を進め、臨床的にも応用範囲が広いことを確認し「イプシロン」という名前で発売します。

次第に重要性・有効性が明らかに

イプシロンは新聞で「万病退治の霊薬」と紹介されました

イプシロンはまったく新しいタイプの医薬品で、抗プラスミン剤という剤名に馴染みがなく、使用は限定的でした。

しかし、次第に重要な酵素であると認識されはじめ、抗プラスミン剤として理論的かつ臨床的に研究する機運が高まりました。すると、毒性が少なく安全性が高いこと、注射だけではなく内服が可能なことも明らかになったのです。1959年の日本医学会総会では、慶応大学医学部をはじめとした大学研究室などが繊維素溶解現象について報告。同時期にイプシロンが急性白血病や血友病、産婦人科領域での出血をともなう疾患などにも有効だと確認され、評価が急激に高まりました。

さらに同年アメリカに特許が申請されて輸出も開始すると、現地の研究家の間でも反響があり、程なくして国際的にも抗プラスミン作用の有効性が確認されます。

イプシロンは新聞で「万病退治の霊薬」と題して紹介されるほど革新的な新薬で、研究が進むにつれ、手術時の異常出血、輸血時の副作用、皮膚疾患、扁桃炎などの炎症性疾患へと、適応領域を拡大していきました。

需要が高まる中、第一製薬はそれまでの5%注射液のほかに、大量使用に適した高濃度20%注射液を開発。また、服用しやすい錠剤やシロップ、トローチなども発売し、臨床的にも抗プラスミン剤研究の進歩に貢献しました。しかし一方で、その作用を確実に得るためには、大量の投与の必要があることもわかってきたのです。

さらに効果的な「トランサミン」も開発に成功

発売当初のトラネキサム酸。当時は注射剤とカプセルのみでした。

そこで第一製薬の研究陣は、神戸大学医学部の教授となっていた岡本博士の協力を得て、2分子のε-アミノカプロン酸をトランス型(分子の二重結合の2通りの幾何異性体のうちの一つ)で結合させ、少量の投与で抗プラスミン作用を示す、トランス-4-アミノメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸 (トラネキサム酸)の開発に着手し成功。1965年、創業50周年を記念し、「トランサミン・注」「トランサミン・カプセル」として発売します。

「トランサミン」は、血液の凝固因子、組織因子、血小板、血管系などのすべてに関与する医薬品です。凝固の最終点で、血液凝固に関連するタンパク質のフィブリノゲンが活性化した「フィブリン」を安定させるという、従来の止血剤とはまったく異なる総合的止血作用があることも特徴でした。紫斑病・喀血などのあらゆる出血性疾患はもちろん、皮膚科・耳鼻咽喉科の炎症性疾患や輸血時の副作用など、副腎皮質ホルモンや抗ヒスタミン剤が無効な症例にも有効で、適応症はきわめて広範囲に渡りました。

 

同年の国際生理学会でトランサミンを発表すると、諸外国の生理学者の注目を集めて高い評価を受けました。

WHO必須医薬品モデルリストからスキンケアまで

トラネキサム酸は、現在もWHO必須医薬品モデルリスト*に収載されている医療用医薬品に加えて、のどの痛みや口内炎などに対応するOTC医薬品(「ぺラックT錠」「トラフル錠」シリーズ)や、総合かぜ薬 ルルアタックEXプレミアム(指定第2類医薬品)、しみ(肝斑に限る)改善薬 トランシーノⅡ(第1類医薬品)、トランシーノ薬用スキンケアシリーズ(医薬部外品)などに、広く使用されています。

時代の先を行く新たな医薬品を生み出し、長い間根気強く研究を続けて発展させてきた第一製薬。その情熱は今もとどまることなく、第一三共に受け継がれています。

* WHO必須医薬品モデルリスト(WHO Model List of Essential Medicines , EML):世界保健機関 (WHO) が策定した、現代的な医療水準を維持するために必須と考えられる医薬品類(essential medicines , E-Drug)

Share

to Page Top