「Patient Engagement」を問い直す――がん経験者の皆さんと紡いだ「Healthcare Café meetsがんノート」の集大成 New

2026年01月20日
Patient Centricity
Share

第一三共が武田薬品工業とともに2021年に作成した「非臨床段階からの創薬活動におけるPatient Engagementのためのガイドブック」。その内容に沿ってPatient Engagement(患者さんとの協働、以下「PE」)を実践する場として、複数の製薬企業が協働で企画する患者さんとの対話イベント「Healthcare Café」が2022年9月にスタートし、現在は武田薬品工業、協和キリンと当社の三社で運営しています。

第一三共主催のHealthcare Caféでは、「Healthcare Café meets がんノート」と題して、がん経験者の方との対話を実施。過去2回の開催で、同じがん経験者の方をお招きし、がん経験者の方やそのご家族のリアルな声に直接触れることで、社員一人ひとりが「患者さんの生活や困りごと」を自分ごととして考えるきっかけとなりました。製薬企業の社員が、日常業務の中で見落としがちな「当たり前」や「常識」を問い直し、患者さんの視点に立つことの難しさと大切さを実感したのです。

2025年9月、第一三共主催の第9回 Healthcare Caféは、がん経験者の方との対話会シリーズの集大成となる「Healthcare Café meets がんノート final」として開催。締めくくりにふさわしい場として、これまでの対話をさらに深める企画となるよう工夫を重ねました。結果、がん経験者の方と社員が率直に意見を交わし、互いの理解を深める時間となりました。

がん経験者の方の率直な言葉に大きな衝撃を受けました

「患者さんの笑顔のために」という言葉の受け止め方――あるがん経験者の方からの指摘

過去2回の「Healthcare Café meets がんノート」も含めた対話の中で、製薬企業側の参加者が繰り返し口にしてきた「患者さんの笑顔のために」という言葉。何気なく使っていたこの言葉に対し、がん経験者のお一人である坂井広志さんから、「言い尽くされたテンプレートのように感じる」という率直なご意見がありました。「生きるのに必死で、笑顔になる余裕なんてなかった」と続けて語る、言葉に向かい合う職業である新聞記者の坂井さんのこの発言は、製薬企業側の参加者に大きな衝撃を与えました。「患者さんの笑顔のために」というフレーズは、多くの製薬企業の理念やビジョンなどにも掲げられ、普段から当たり前に目指すべきこととして使われてきましたが、実際に患者さんと向き合うことで、その言葉の重みや責任を改めて実感することとなりました。

企業側参加者が少人数のグループに分かれて話し合う中で、この坂井さんの言葉を受け、「患者さんの笑顔」を“エンドポイント”として押し付けるのではなく、涙が止まる瞬間や日常の小さな幸せなど、より具体的なイメージで捉えるべきだという声があがりました。自分たちが発信する「言葉の重み」について、参加者一人ひとりが深く考え直すきっかけとなりました。

患者さんと、見ていたる時間軸が違うことにも気づきました

「時間軸の違い」――対話から見えたギャップ

対話の中では「時間軸の違い」についても大きな気づきがありました。医薬品の研究開発には長い年月がかかり、製薬企業の研究者は10年以上先を見据えて研究しています。一方、患者さんにとっては「今この瞬間」が、かけがえのない時間です。坂井さんからは、「製薬会社の人はいつも、薬ができるのには何十年もかかると言う。だけど、治療法がなければ、あと数年しか生きる時間がないと思っている私たちとは時間軸が違い過ぎる。その溝を埋めるのはとても難しい」という正直な想いを伝えてくださいました。

このギャップをどう埋めるか―それが、今後の大きな課題として浮かび上がりました。企業側からも「患者さんのことを、当事者意識を持って考える必要がある」「(人事部門や経理部門などのコーポレート部門で)直接的に患者さんと繋がっていなくとも、自分の業務は患者さんに繋がっているという意識を持つ」といった声が上がり、日々の業務の中で自分の仕事がどのように患者さんに繋がっているのかを意識することの重要性が強調されました。

「当たり前」や「常識」の変化

Healthcare Caféに参加したことで、これまで「当たり前」や「常識」だと思っていたことを見直すきっかけになった、という声が多く聞かれました。

  • 病気を経験すると、今までの「当たり前」が当たり前でなくなることを改めて実感した
  • 「患者さんの笑顔のため」という言葉や、製薬企業の仕事と患者さんの時間軸の違いについて、立ち止まって考えるきっかけになった
  • 人生の時間は有限であり、「今しかできないことを今やる」ことの大切さを強く感じた

今後、私たちは何をしていくべきか

Healthcare Caféを通じて得た最大の学びは、「患者さんのために」という言葉の本質を問い続けることの重要性です。単なるスローガンではなく、日々の業務や対話の中で「本当に患者さんのためになっているか」「本当に患者さんが望むことか」など、自問し続ける姿勢が求められています。

今後、私たちが取り組むべきことは何か―

  • 患者さんやご家族のリアルな声に耳を傾け続けること
  • 社内外での対話を継続し、気づきを共有すること
  • 自分の業務が患者さんにどう繋がっているかを常に意識すること
  • 新しいアイデアや仕組みを積極的に提案し、実行に移すこと

また、Healthcare Caféでの対話を通じて、今後の業務にどう活かすか、さまざまな意見が上がりました。

参加者からは「自身の業務では、患者さんや医療関係者の方と接する機会がなく、この体験を日々の業務にどう生かすかのイメージが湧かない」といった声もあり、個々の業務と患者さんとの距離感に悩む姿も見られました。一方で「業務には直接的に反映できないが、意識改革や社内での伝播が重要」「業務には直結しないが、モチベーション向上に繋がる」「たとえ医療現場からは遠い職種であっても、製薬企業で働く以上、日々の業務は必ず患者さんに繋がる」といった前向きな意見や、次のように具体的な業務に落とし込んだ意見も上がりました。

  • 患者さん向けの治験情報 、臨床試験のLay Summary発信の推進
  • 研究開発の効率化
  • 研究開発以外の部門の新人教育における医薬品研究開発プロセスの理解促進

Lay Summary:臨床試験の結果などを、患者さんや一般の方にわかりやすくまとめたもの

がん経験者の方との対話をテーマとした「Healthcare Café meets がんノート」は一つの区切りを迎えましたが、Patient Engagementの実践に終わりはありません。これからも、患者さんや社会とともに歩み、誰もが自分らしく生きられる未来を目指して、私たちは問い続け、挑戦し続けます。

今回の「Healthcare Café meets がんノート Final」も、進行はNPO法人がんノート 代表理事の岸田徹さんに務めていただきました。また前回までと同様、グラフィックファシリテーションという手法を使い、(株)しごと総合研究所の皆さんに、患者さんの想いの視覚化・言語化をお手伝いいただきました。

がんノートさん、しごと総研さん、また、3回にわたり、ご自身のがん経験を語ってくださった三橋美香さん、坂井広志さん、ありがとうございました。

Share

to Page Top