2023年10月、第一三共株式会社と味の素株式会社は、味の素㈱が開発したAI搭載献立支援サイト「ReTabell(リタベル)」の共同普及を行うことをプレスリリースしました。「ReTabell」は、食べる人の体調や好みに合わせ、栄養バランスが整った献立を提案するサービスで、摂食に関する困り事を抱える人たちにとっては、「ありそうでなかった」画期的なサービスです。「ReTabell」の特徴や開発の経緯、今後の展望について、プロジェクトリーダーを務めた味の素㈱の田中孝幸さんと、第一三共の西窪祐一さんに伺いました。
・田中孝幸さん
味の素コーポレート本部 R&B(Research & Business)企画部
アクセラレーショングループ マネージャー
・西窪祐一さん
第一三共HaaS(Healthcare as a Service)企画部
医療現場にも活かせるレシピ提案サービス「ReTabell」とは?
「ReTabell」は、要介助者の体調・嗜好が変化して一旦食べられなくなっても再び(Re)食べられるようになることや、医療関係者(医師、薬剤師、看護師、管理栄養士等)や介助者の要介助者に対する利他(リタ)的行動を支援するWebサイトです。
サイトでは、加齢や病気の症状、医薬品の副作用などの影響で起こる「食欲がない」「便がでにくい」「味がしない、おかしい」「おなかがくだる」「噛みにくい、飲み込みにくい」といった日々の体調変化に応じた栄養バランスの整ったレシピが紹介されています。
既存の献立・レシピ検索サイトと異なる一番の特徴は、提案される全てのレシピが「栄養関連学会のガイドラインに沿った、栄養バランスのとれたレシピ」であること、そして何よりも、味の素㈱という食のプロフェッショナルが、摂食に課題を抱えている人々に食の喜びと健康を提供していること。西窪さんは「ソリューションを医療関係者に紹介または提供する場合に、サイエンス&エビデンスの存在は欠かせないポイントです。そして、サイエンス&エビデンスを通じてQOL*向上に貢献できることこそ、HaaS企画部が目指すHealthcare as a Serviceです」と語ります。
ReTabellで紹介されているレシピは、身近な食材で誰でも簡単に作ることができるので、体調が優れない方だけではなく、健康な方も一緒においしく食べられるように工夫されています。摂食の困り事を抱える方からそのご家族、介護施設の調理スタッフや医療機関の管理栄養士、薬剤師の皆さんまで、幅広い方々に日々利用していただけるサービスです。
- *QOL:クオリティーオブライフ(Quality of life:生活の質)の略
AI搭載だからこそ。蓄積した膨大なデータから、最適なレシピを3秒で提案
もう1つの特徴は、献立支援AIを搭載していること。AIは、体調ごとにどのような栄養・味・形状のレシピが食べやすいかといった情報をタイムリーに学習していきます。そして、利用者が検索すると「AJINOMOTO PARK 」のレシピ大百科の12,000件を超えるレシピから、適した献立(レシピ)を3秒で提案します。
このAIによる検索システムは特許取得済みで、既存の献立・レシピ検索サイトには存在しない機能です。さらに12,000件を超えるレシピ数というのは、摂食に課題を抱えている方にとっては大変心強いものです。
家族が食べられなくなってしまったことがきっかけで、開発・協業へ
ReTabellの開発のきっかけは、田中さんに起きた出来事にありました。食べるのが大好きだったご家族の一人が、病気になったことで思うように食事が摂れなくなり、その後亡くなったのです。「そのころの私は食と栄養の研究者をしていたのに何もできなくて……。後悔と怒りが湧いて、次第に『研究成果を社会に実装していかなくては!』と考えるようになりました」と田中さん。それをきっかけに、味の素㈱の新規事業創出プロジェクト・A-STARTERSにReTabellの企画を応募し、採用されて事業化がスタートしたのです。
第一三共との協業は、数年前に両社のDX部門同士による、がん領域でのコラボレーションの検討に端を発します。ReTabellを通じて、医療領域に強い第一三共と食領域に強い味の素㈱、両者の強みを活かす取り組みは患者さんの困り事解決に貢献できるだろう、と協業を開始しました。
使用検証後も93%の方が継続利用。リリース後の大きな反響
ある栄養学の学会にReTabellの紹介ブースを出すと、医療関係者からの反響が大きく、応援のメッセージも多数いただきました。
実際にがん患者の方に「ReTabell」の使用検証を3か月実施したところ、約93%の方が継続して使用しているという結果も出ています。リリース後には、介護施設や医療施設からの問い合わせも増加しました。
患者さんやそのご家族、そして社会も笑顔にしたい
摂食の問題を抱えるがん患者さんやフレイル(加齢によって心身が虚弱となる)患者さんが年々増加する中、広く活用していただけるReTabellを、これからさらに広げていきたいと、西窪さんも田中さんも意欲を見せます。
西窪さんは「ReTabellをたくさんの方に使っていただけるよう、まずは我々の強みを発揮できる医療現場への働きかけをしっかりとしていきたい」と語ります。「ReTabellによって、私たちの目指す『Healthcare as a Service』の実現に寄与し、患者さんとそのご家族、社会を笑顔にすることに貢献できればと考えています」
田中さんは、味の素㈱が事業を通じて社会課題や問題に向き合うことで、社会価値と経済価値を共創する取り組み・ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)の視点から、「私自身は『一般家庭での介助者や医療関係者やヘルパーの方など、利他的な行動をとっている人を応援したい』というASVを掲げており、ReTabellはそのASVを具現化したサービスです。今後もより多くの人の『食べられない』を『食べられる!』に変えていくお手伝いをしていきたいです」と語ります。
実は、味の素㈱と第一三共の今回の協業契約締結日は、田中さんがReTabellの開発を決めるきっかけとなったご家族の命日でもあるそうです。田中さんはそのことに深く縁を感じており「ReTabellをさらに成長させていくことが私の使命だと感じています」とも語ってくれました。
味の素㈱の「食領域」と第一三共の「医療領域」、それぞれのフィールドでの強みを活かし補いあうことで活躍フィールドが広がり、多くの人の生活の質を上げられると私たちは考えています。味の素㈱のASVと第一三共が目指す「Healthcare as a Service」のシナジーで、これからも新たな価値を届けていきます。
ReTabell ~食事を通じてあなたを応援する~
味の素㈱ストーリー: 味の素㈱×第一三共が協業 「食べられない...」を「食べられる!」にするサービス「ReTabell」がスタート