先進的グローバル創薬企業の研究をリードする執行役員 研究開発本部長 / 研究統括部長 阿部有生さん

先進的グローバル創薬企業の研究をリード 。高い専門性を持つ研究者たちが協働できる組織を目指して New

2025年08月19日
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研究開発第一三共株式会社で研究開発本部長兼研究統括部長を務める執行役員の阿部有生さん。

がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業として、高い専門性を有する研究者たちが情熱をもって日々挑戦できるような組織づくりを目指す、その想いについて語ります。

探索研究への思いをかたる阿部さん

“創薬に関わりたい”-探索研究の道へと進んだ若き日の覚悟

1996年に農学系の大学院を卒業して第一三共の前身である三共株式会社に入社した阿部さんの最初の勤務地は、福島県いわき市にある小名浜工場内のバイオメディカル研究所でした。当初、高脂血症治療剤の合成原料産生にかかわるアオカビを遺伝子レベルで解明する研究に携わりましたが、創薬に関わりたいとの想いを強く胸に秘めていました。それから6年後、異動希望が叶い、品川の探索研究所で循環器や疼痛領域の研究に取り組むことになります。探索研究では同期入社の研究者と比べてスタートが遅れていたため、追い付こうと必死だった当時を阿部さんは次のように振り返ります。

「他の人が2年かけて1つの研究テーマに取り組むところ、2つの研究テーマを同時に挑戦することを自らに課すなど、2倍働き、2倍学ぶつもりで低分子創薬研究に取り組む毎日でした。同時に、創薬はそう簡単には成功しないものだと身をもって実感する日々でもありました。」

思うような成果を出せず、行き詰まりを感じていた2007年2月、がんのシグナル伝達を学ぶため、ハーバード大学への2年間の研究留学の好機が訪れました。

「留学中、米国で多くの研究者と交流する機会を得たことで、以前よりも物事を前向きに捉えられるようになりました。また、大学での基礎研究とは異なり、製薬企業の研究所で日々新薬の研究に携わる自分の立場がいかに恵まれているかを実感しました。帰国後には、一日でも早く成果を出さなければという強い使命感を抱くようになったのです。」

製薬分野におけるノーベル賞と言われるガリアン賞受賞後に
亡き前研究開発本部長の我妻さんと

垣根を超えたチームワークによって実現したADC※1技術の確立

帰国後の2010年4月に抗体医薬研究所に異動し、当時、我妻利紀さん(故人)が率いるADCワーキンググループの研究チームリーダーとして登用されることになりました。ADCは1900年代にドイツの学者によって提唱された概念ですが、長らく実用化には至りませんでした。そうした中、第一三共は2010年に新たなADC技術の確立を目指して研究チームを組織化し、2012年には、がん治療の主軸を担うことになるADCの独自技術が完成しました。非常に短期間で成果を上げることができた理由について、阿部さんは次のように話します。

「所属する組織や専門性の異なる研究メンバーが多数集まり、妥協することなく白熱した議論を喧々諤々と行ってきたことが成功の鍵になったと考えています。一方で、複数のADCプロジェクトを同時並行で推進するという、大変やりがいのあるミッションではありましたが、各研究メンバーの負担はかなり大きかったのではないかと、当時のマネジメント職として反省しています。」

※1Antibody Drug Conjugate(抗体薬物複合体)の略。抗体にリンカーと呼ばれる部分を介して化学療法剤であるペイロードを結合したもの

ダンス※2の練習をする阿部さん

専門分野横断型でフラットな研究組織の実現

2019年に研究統括部オンコロジー第二研究所長に就任した阿部さんは、第一三共の前身である第一製薬株式会社が得意としてきた低分子創薬と、三共の強みであったバイオ医薬の研究を融合させ、それぞれの長所を活かした研究組織の運営に尽力しました。2023年には研究成長戦略の立案・実行、人材育成の加速化およびオープンイノベーションの更なる推進を実現するために、「研究イノベーション推進部」を新設しました。また、2024年には研究所に対するサポート機能を強化するため、当該組織を研究の企画・構想・DX 施策を担う「研究イノベーション企画部」と、研究管理・推進機能を担う 「研究イノベーション推進部」に再編しました。各研究所に配置されていた研究所スタッフの所属を研究イノベーション推進部に移すことで、さまざまな情報が共有されやすくなり、業務の効率化にもつながったといいます。

世界に先駆けて新薬を創出するためにはスピードが重要であり、それを可能とする組織設計が必要だったと阿部さんは語ります。

「創薬には多くの研究者が関わりますが、優れた医薬品を生み出すためには、それぞれの能力を存分に発揮できる環境づくりが大切です。さまざまな専門分野の研究者が切磋琢磨し、仮説と検証を繰り返しながら結論を導き出せるようなフラットな研究組織が必要なのです。」

※2毎年夏に、品川研究開発センターで研究開発本部の労使が主催する夏祭り「しなフェス」のための、一般社員、部所長、本部長、執行役員混合ダンス。第一三共のフラットな組織を体現するイベントの一つ

我妻さんと回る約束をしていたSmart Research Laboratory※3近くののゴルフコース

理想とするリーダーシップ像。息抜きはゴルフ、読書、映画鑑賞

自身のリーダーシップについて、阿部さんは次のように話します。

「リーダーシップにはさまざまな型がありますが、特定の型を追い求めるのではなく、チームの編成や状況に応じて、リーダーシップとフォロワーシップを臨機応変に使い分けながら、メンバーがそれぞれの役割を果たせるように働きかける。こうした柔軟な関わり方や姿勢こそが、今の自分にとって必要なのではないかと感じています。」

研究留学中、自身がいずれリーダーシップを発揮するためには、まずは体力が重要と考えていたため、帰国したタイミングで息子さんと一緒に“空手”を習い始めたという阿部さん。最近では、息抜きで始めた“ゴルフ”に目覚めたそうです。

「最近、室内練習場でプロのレッスンを受けているのですが、スコアは一向に縮まりません。動画撮影した自分のスイングを見てみると、理想とするスイングとの差に愕然としてしまいました。これから長い付き合いになりそうです」と笑顔で語ります。

一方で小学生の頃から読書が好きで、司馬遼太郎の歴史小説を中心に多くの本を読んできたそうです。「人生において最もインパクトがあったのは、小児のときにたまたま検査入院中に読んだ安部公房の小説『壁』。朝起きたら主人公が壁になっているという衝撃は、今でも忘れられません。この体験を通じて、自分の境遇や悩みなんてちっぽけなものだと感じられるようになりました。」

映画鑑賞も趣味の一つで、黒澤明監督の『生きる』や三船敏郎さん主演の『風林火山』といった重厚な作品から、『007』や『ミッション:インポッシブル』シリーズのようなハリウッド映画まで、幅広く楽しんでいるそうです。

※32025年1月に米国・カリフォルニア州サンディエゴに設立した、最先端技術を導入した研究所。詳しくはこちら

研究者の基盤として求められる高度な専門性

「これまで述べてきたように、創薬には垣根を超えたチームワークが重要です。しかし、それは高い専門性や経験を有する研究者たちがチームを組み、協働して研究に取り組むことが前提となります。つまり、チームワークを発揮するためには、それぞれの研究者が自らの専門性を高める努力を怠らないことが不可欠なのです」と、これまでのキャリアや経験を振り返る中で、阿部さんは、研究者として成功するには高度な専門性を持つことが最低限必要だと強調しました。

そして、研究部門を取りまとめる現在も研究者としてその想いは変わらず持ち続け、創薬の未来、世界の人々の健康に貢献していきたいと語っています。

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