1992年、旧三共株式会社で修士卒女性の入社第一号だったという上代 才(かじろ とし)さん。約30年を経て、2022年4月より第一三共の執行役員および製薬技術のグローバルヘッドに就任しました。今でこそ世界中で推進されている「女性活躍」ですが、入社当時は社会の意識も低く、制度も整っていない状況でした。その中で、どのように実績を作り、キャリアアップを図ってきたのか。 上代さんが入社当初から変わらず持ち続けているスタンスと、キャリアアップへの向き合い方、独自のリーダーシップ論、今後のビジョンについて語ります。
新しいチャンスが次々と舞い込んできた、上代さんの仕事への取り組み方
高校の生物の先生だった父親の影響で、小さな頃から科学の考え方が身に付いていたという上代さん。高校で理系へ、そして大学の学部を選ぶ際には、将来は人の健康に貢献できて、女性でも活躍できる仕事がしたいと考えていました。当時、修士卒の女性の就職先はとても限られており厳しい就職活動でしたが、無事入社できた後は、多くの先輩にも支えられ、新しいことへチャレンジする機会を多く与えられました。
入社後、上代さんは、主に低分子の分析評価研究に従事しながら、ドイツにあるグループ会社のラボとのコラボレーションやメガファーマとの協働、低分子医薬品からバイオ医薬品担当のグループ長への転身、がんの治療薬の承認取得達成など、数々のプロジェクトを通して、常に課題や目標にチャレンジしてきました。
多くの機会を与えられるなかで、新しいことにチャレンジすることへの抵抗感がなくなり、非常にオープンなマインドセットになっていきました。そして、それは仕事に取り組む姿勢にも表れています。上代さんは次のように語ります。
「逆説的ですが、『評価にこだわらない』ということも大きかったかもしれません。とにかく日々の研究の中で、指示された事に少しプラスアルファを加えて新しいことを試したり、疑問に思ったことやアイデアは積極的に提案し続けていたところ、新しいプロジェクトの機会を与えられることが多くなりました。失敗をしたことも勿論ありますが、失敗することを恐れるよりも、チャレンジすること。探究心や好奇心の方が勝っていたと思います。今も仕事に対してのワクワクを常に大切にしています」
上代才 第一三共 執行役員 製薬技術本部長 製薬技術ユニット長
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「一人では成し得ない価値を創造」するために。メンバーの力を最大限に発揮させるチームづくり
新しいシチュエーション、新しいステークホルダー、新しい文化における業務や課題、チャレンジを通して、積極的に仕事へ取り組んでいく中で、上代さんは、グループ長、研究所長、本部長、グローバルヘッド…と、キャリアアップしていきます。しかし、意外にも「私は前に立って強力に牽引していくタイプのリーダーではない」と言います。
そんな上代さんは、リーダーシップに関して、次のように語ります。
「これまでのマネジメントで非常に印象に残っているのは、長年研究を続けてきた低分子から新しくバイオに移り、グループ長になった時でした。部下の方が専門性において優っている、という状況でのマネジメントです。若い研究員を成長させながら新薬の承認取得という必達業務を推進しなければならなかったので、ポテンシャルの見極めが重要でした。今できなくても、数か月後にはできるようになるのではないか?という伸びしろを信じて仕事を任せることも必要でした。常に大切にしているのは、それぞれの強みを活かしていく、ということです。これは、自身が目指す製薬技術のグローバル組織のあり方とも似ていますが、ゴールや目的を決定・共有した後は、チームのメンバーにやり方は任せる。Whatをしっかり握って、Howについては自由度を与えることが重要だと思っています。そのために必要なことがあれば、きちんと対応・サポートしていき、障害があれば取り除く。心理的安全が確保された中で仕事をしてもらえるように心がけています」
そのなかでもリーダーとしては、目的やゴールをチームと明確に共有することが重要だと上代さんは語ります。
「時に、そのゴールの捉え方やイメージが違っていることもあるので、真の共通のゴールは何なのか、クリアな共通の認識を、みんなでしっかりと握っていく。その同じゴールに向かって切磋琢磨して、強みを活かし合うことで『一人では絶対成し得ない価値を創造する』ことが出来ると思っています」
“治す” 以上の価値を。目指すのは、患者さんのQOL向上
現在、日本とアメリカ、ドイツ、中国の四カ国と連携して、製薬技術のグローバルヘッドとして指揮を執っている上代さん。製薬技術ユニットのビジョンは、「先進的な製薬技術を活かしたソリューションを提供することにより、 希望を現実に変えていくこと」。その深層には、患者さんに対する明確な想いがありました。
創薬で見出された 「化合物」 を患者さんに「薬」として届けることが製薬技術ユニットの役割です。私たちの製薬技術によって、徹底した品質、つまり安全性・有効性の堅持、コストやスピードの観点から第一三共のアセットに強みを持たせること、それらは当然のことですが、最終的な目標ではありません。私たちが目指すのは、患者さんが『勇気づけられて希望が持てる』、そんな薬を提供していくことです。そのためには、単純に『治す』というだけでなく、患者さんの生活の質(Quality of life)を考えていくことも非常に重要になります。例えば、より投与しやすく、飲みやすい剤形を開発していくことであったり、長時間の点滴投与の負担を減らすために新たな剤型の開発に取り組んだり、そういったことも医薬品の価値を高めるためには大切であり、患者さんが治るまでの間も快適に過ごせるようにしていきたい、という想いがあります」
そして、その目標を達成するため、「今後は、グローバルな組織力をさらに強化していきたいと思っています。これまでよりも地域間での情報共有やdecision makingの透明性をより高め、互いの強みを活かして機能軸で連携していく、そんな組織づくりを目指したいと思っています」と、抱負を語ってくれました。