取締役常務執行役員 経営戦略本部長 福岡 隆さん

自身の欠点を認めた上で努力を重ね、周りと正直に向き合い続ける

2022年12月05日
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創薬研究に情熱を注ぎ、長年組織を率いて活躍し、周囲からの信頼も厚い福岡さん。そのリーダーシップに影響を与えた経験や想いについて語ります。

創薬の真の価値は、患者さんに薬を届けて役に立つこと

「幼い頃から獣医になるのが夢でした」という福岡さんが創薬の世界に足を踏み入れた背景には、大学での苦い経験があります。提示した実験データが仮説と食い違うことから、教授にデータを信頼してもらえず、何度も同じ実験を繰り返しました。それは「ストレスで髪の毛が抜けました」と振り返るほどの経験でした。最終的には、自分のデータが正しいことを証明して論文を書きましたが、その前にキャリアを決める必要がありました。「このまま臨床獣医師になるのはサイエンスから逃げることになるのではないか」と考えた福岡さんは、サイエンスと向き合い続けるべく、三共に入社を決めました。

入社後は抗感染症薬の創薬研究に従事。その研究の最中、福岡さんはまたもや、提示したデータを上司に信じてもらえないという、同じ壁にぶつかりました。幾度も同じ実験を繰り返してははね返される日々でしたが、学生時代と同様に、めげずに「なぜ」を追究し続けました。その結果、その薬剤が緑膿菌※1に対して体内で強い効果を発揮する新知見を見出し、適応症の取得に貢献。「仮説とデータの違いに新しい発見の可能性が潜んでいます。食い違いがあっても逃げずに向き合い続ける勇気を学びました」。

1993年にその薬剤は無事に市場に出ました。その時期に出会った、ある医師の方の話が福岡さんの意識を変えました。それは、肺炎に罹った末期肺がん患者さんのエピソード。どの薬も効かなかった中、福岡さんが「なぜ」を追求し続けた薬剤を使用したところ一晩で熱が下がり治癒したといいます。残された時間が少ない中、患者さんは自宅でご家族との大切な時間を過ごすことができた、とドクターから感謝されました。「この時、創薬の本当の意義を確信しました。患者さんに役に立つ薬を届ける。その使命感に突き動かされました」。これを機に、福岡さんはより一層創薬研究に情熱を注ぎ始めました。

福岡さん直筆。アメリカ駐在中は、地域のコミュニティースクールにも顔を出していた。

逃げたいものにも立ち向かう原動力は、仲間からの感謝

時代の変化と共に当社の重点領域も変化してきました。16年間携わった感染症疾患領域を守るためにも広い視野を身に付け、戦略について勉強するべき、という研究所長からの助言を受け、福岡さんはプロジェクトマネジメント部に異動しました。プロジェクト・マネージャーとして開発プロジェクトをリードする他、改革プロジェクトや経営統合などを推進。沢山の仲間と共に、研究所時代とは異なるサーバントリーダーシップ(相手に奉仕することで相手の力を引き出すリーダーシップスタイル)の大切さを学びました。その後、アメリカ駐在の声がかかり、アメリカの開発組織で、欧米の仲間と共にプロジェクトマネジメントやチェンジマネジメント業務に関わりました。

5年間の駐在から帰国して1年後から、ベンチャーサイエンスラボラトリー(VSL)※2の長を6年間担っていましたが、再びアメリカ駐在の機会が訪れます。「アメリカでの業務が始まると、自分の中の『グローバルの時計』が止まっていたと痛感しました。会社・メンバー・事業領域、何もかもが違う中で、以前の自分では通用しない。ゼロから始めなければ、と焦りましたね」と振り返ります。

組織や人事、戦略やプロセスの立て直しのために派遣された福岡さんの役割は、言わば「消防士」でした。「普通は火から逃げなければならないのですが、その火を消すのが私の仕事。とにかく問題や相談があれば、全て私に言うよう呼びかけました。現地の仲間や駐在員と共に、一つひとつ課題を解決できたのは本当に貴重な経験でした。火傷しますから、正直二度とやりたくはないですね」と福岡さんは笑いながら語ります。「でも、課題を解決すると心からの感謝をしてもらえるんです。立場が上になると何をやっても当たり前と思われがちで、感謝される機会が減ってしまって。その点で、本当にやりがいがありました。逃げたいものに立ち向かう時も、勇気を持ち、仲間がいれば大丈夫、と前を向いていれば、何とかなるものです。修羅場・土壇場・正念場(SDS)の経験は、成長の原動力です」。

もらった厳しい言葉は信頼の証

キャリアの中でも大きな経験の1つが、VSLのリーダーを務めたことです。VSLは、ファーストインクラス(革新的医薬品)の創薬を目指し、2013年に新設されたユニークな組織でした。当時、保守的な傾向の強い社内の研究所に、ベンチャースピリットで新しい風を吹き込み、「5年以内」に革新的な新薬を臨床ステージまで進めることを期待されていました。しかし、ファーストインクラスの創薬をゼロから始めるのは至難の業です。さらに、研究室はおろか機器も十分に揃っていない状態からのスタートだったので、「話を聞いた時、頭の中で理性は『やめておけ!』と言っていました。でも口が“Yes, Sure!”と答えてしまって。どうやら脳ではなくハートと口が結びついているタイプみたいです」と福岡さんは語ります。そんな福岡さんを待ち受けていたのは、研究員たちとのすれ違いでした。

ファーストインクラスの創薬では、スピード感が重要。福岡さんは、1分1秒でも早い意思決定を意識し、実行し続けました。しかし、その熱意が裏目に出てしまい、組織内の関係性が悪化し始めます。ある時、メンバーから「このままではVSLが崩壊してしまう」との言葉を受け、ハッとしました。メンバー全員から、自分への不平不満・要望を募ったところ、数々のコメントが集まりました。「痛いな、と思うと同時に、ありがたくも感じました。もし私のことを信頼していなければ、当たり障りのない言葉しかなかったはず。厳しい言葉が並んでいるのは、皆が自分を信じてくれている証拠だと思いました。当時集まった言葉は今でも宝物です」と福岡さんは話します。

創薬はチームが一丸となって取り組むチャレンジでもあります。福岡さんはその日から、研究員の期待に応えるべく動き始めました。「メンバーの期待に応えるリーダーにはなれなかったと思いますが、大事なのは自分の欠点を認識した上で改善の努力すること、そして、周りと正直に向き合うことだと思いました。私はどうも人の話をじっくりと聞くのが苦手ですが、自分の考えを発信する場を積極的に設けると同時に、一人一人との面談などを通じて研究員たちの考えも理解するよう努めました。本音で語り合うことで信頼関係が生まれ、次第に努力の持ち寄りが始まってとても嬉しかったです」と、振り返ります。残念ながらVSLは6年で解散。しかし、社外に導出したものを含め、現在3つのプロジェクトで臨床試験を行っています。「いろいろありましたが、多い時でも総勢30名の研究員の成果としては立派だと思います。皆、本当によく頑張ってくれて、我々を支えて下さった他の研究所やスタッフ部署の方々も含め、感謝の気持ちでいっぱいです」。

活力のある会社を目指して、皆にも成功体験を

リーダーとして、厳しい意見にも向き合いながら、必要な時には強引にでも組織を率いる背景には、部下たちを「勝ち馬に乗せたい」という想いがあります。「創薬は厳しい勝負の世界。その中でも私が頑張れている根底には、自分が取り組んだ薬剤が世の中に出て、患者さんに届けることができたという経験があります。革新的な薬を創り、それを患者さんに届けることは、世界で最も素晴らしい『誇り』の持てる仕事だと思っています。その気持ちを常に持つことで、沢山の失敗や困難も克服でき、自分らしくのびのびと働くことができています。またそうした挑戦の中での学びやレジリエンスが、これまでの自分自身の成長の糧になっています。若い方たちにも、挑戦を続けるために、自信になる成功体験を得てもらいたい。」と力を込めます。「人材育成は大きな目標の一つ。私の仕事は薬を創り、人を育てること。自分がどう思われるかより、この二つを大切にします」。

そんな福岡さんが描く第一三共の姿は、「全ての社員がのびのびと働ける健康的で活力のある会社」。「世界中のメンバーが一丸となり、当社をリスペクトフルでハートフルなグローバルカンパニーに成長させることで、多くの創薬を通じて社会に貢献していきたいです」と熱く語ってくれました。

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※1 緑膿菌:日和見感染症を引き起こす病原菌の一つ。各種の抗菌薬に耐性を示す傾向が強いことが問題となっている。

※2 ベンチャーサイエンスラボラトリー:2013年に新設された社内ベンチャー様組織。その後、2019年に解散。

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