がんを取り巻く環境

1. がんについて

がんは国内においても世界においても、罹患率、死亡率が高い疾病のひとつであり、2020年には、世界で約1,900万人もの人が新規にがんに罹患しています。日本において、がんは、1981年より死因の第1位であり、2019年には、年間37.6万人が亡くなりました。こうしたことから、依然として、がんは、人類の生命と健康にとって重大な問題です。

主要死因別死亡率の年次推移(日本)

主要死因別死亡率の年次推移(日本、1989-2019)。がんが1位。次いで心疾患、脳血管疾患、肺炎と続く。

出典:厚生労働省「人口動態統計」をもとに当社にて作成

2. がんの治療

がんの治療は主に、「全身療法」と「局所療法」の2つに分けられます。全身療法には薬物療法があり、局所療法には外科的療法と放射線療法があります。

   種 類  方 法  特 長
 全身療法  薬物療法  薬物でがん細胞を攻撃  ・血液がんや、転移等で局所療法が困難な場合は薬物療法が主体
   外科的療法  手術でがんを切除  ・原発巣にがんがとどまっている場合は治癒も可能
 局所療法  放射線療法  放射線照射でがんを消失  ・手術によって臓器を切除することなく治療効果を発揮
 ・薬物療法や外科的療法と併用されることもある
  

3. がん治療薬の市場

世界の医薬品市場を治療領域別に見ると、抗悪性腫瘍剤(がん治療薬)が1位、全世界で15.3兆円もの市場規模です。
また、今後も毎年10%以上の成長率で拡大していくと予想されています。

治療領域別売上(グローバル)と予想成長率

世界医薬品市場の治療領域別売上高と予想成長率の表。抗悪性腫瘍剤は2019年のが全世界の処方箋薬・OTC薬の売上高15.3兆円で、2026年までの年平均成長率は11.5%増が見込まれる。次いで抗リウマチ剤、糖尿病治療薬、抗ウイルス剤、ワクチン。

出典:EvaluatePharma (World Preview 2020, Outlook to 2026)

  • ※1治療領域の名称は原文では英語表記だったものを弊社にて和訳しました。原文の表記は以下の通りです。
    ランク1から順に、Oncology, Anti-rheumatics, Anti-diabetics, Anti-virals, Vaccines
  • ※2 1ドル=105円で換算

「3 and Alpha(アルファ)」戦略

- 3つの主力抗体薬物複合体(3ADC)に研究開発リソースを集中投入 -

3ADC(エンハーツ®、Dato-DXd、Her3-DXd)の製品価値最大化を目指して研究開発リソースを集中投入するとともに、持続的成長の実現に向けてSOC※1を変革する製品群(Alpha/アルファ)の創薬を目指す「3 and Alpha」戦略のもと、研究開発に取り組んでおります。

第一三共の「3 and Alpha」戦略の図。T-Dxd、Dato-Dxd、HER3-DXdから成る3ADCと、「3ADC以外のオンコロジー」「スペシャルティ・メディスン」「ワクチン」から成る「持続的成長の実現に向けてSOCを変革する製品群(Alpha)」

  • ※1 SOC(Standard of Careの略):現在の医学では最善とされ、広く用いられている治療法

(2021年5月現在)

第一三共のADC技術

1. 抗体薬物複合体(ADC)について

ADCとはAntibody Drug Conjugate(抗体薬物複合体)の略で、抗体にリンカーと呼ばれる部分を介して化学療法剤であるペイロードを結合したものです。がん細胞を標的とする抗体に強力な化学療法剤を載せてがん細胞へ運んでもらい、がんを効果的にたたくことを狙った薬剤です。(化学療法剤と分子標的薬については、コラムに記載)

このADCのアイディアは昔からありましたが、技術的なハードルなどもあり、開発が成功し承認された薬剤はまだ少ない状況です。


抗体、リンカー、ペイロードから成る抗体薬物複合体(ADC)が、がん細胞の抗原に届くまでのイメージ図

化学療法剤と分子標的薬について:詳しくはこちら

従来、がんの薬物療法の中心は化学療法剤でした。化学療法剤は、増殖の盛んな細胞に対して治療効果を示す低分子薬剤ですが、消化器や骨髄の細胞など、正常な細胞が分裂・増殖することで機能を維持する組織にも影響を及ぼすため、これが副作用となって現れます。

これに対し、分子標的薬は、がん細胞に高発現する遺伝子やタンパク質を標的とするため、正常細胞に及ぼす影響は低く、分子標的薬独自の副作用はあるものの、従来型の化学療法剤で見られるような副作用が比較的少ないのが特長です。(抗体医薬は代表的な分子標的薬です。)

化学療法と分子標的薬(抗体医薬品を含む)が、がん細胞および正常細胞へ与える影響のイメージ図

2. 第一三共のADC技術の特徴

第一三共のADC技術には6つの特徴があります。
リンカーについては、(1)高い薬物抗体比(抗体1つに多くのペイロードを結合)を実現し、がん細胞に多くのペイロードを届けることができ、(2)血中での高い安定性から、ペイロードが抗体から外れにくいため、がん細胞に確実に届けることができ、また外れたペイロードによる正常細胞への悪影響を少なくすることができます。また、(3)がん細胞内で多く発現する酵素で選択的に切断されます。

ペイロードについては、(4)がん細胞を死滅させる作用が強いことはもとより、(5)がん細胞に取り込まれたペイロードが周りのがん細胞にも作用するバイスタンダー抗腫瘍効果(コラムに記載)を発揮し、(6)抗体から外れた後は血中から速やかに代謝されます(よって正常細胞への影響が少ない)。


抗体、リンカー、ペイロードから成る抗体薬物複合体(ADC)図

      リンカー      
 特徴1: 高い薬物抗体比  
 特徴2: リンカーの高い安定性
 特徴3: リンカーの選択的切断
 
    ペイロード    
 特徴4: ユニークで強力なペイロード
 特徴5: バイスタンダー抗腫瘍効果
 特徴6: 血中での短い半減期

抗体薬物複合体(ADC)と第一三共のADC技術 <動画> 5分38秒

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バイスタンダー抗腫瘍効果について:詳しくはこちら

がん細胞に取り込まれたペイロードが周りのがん細胞にも作用する効果です。がんは、抗原が発現しているがん細胞と、抗原が発現していないがん細胞が混在した状態にあります。標的となる抗原が発現していないがん細胞が多く混在した腫瘍に対しても、バイスタンダー抗腫瘍効果によって有効性が期待されます。

がん細胞に取り込まれたペイロードが周りのがん細胞にも作用する効果(バイスタンダー抗腫瘍効果)のイメージ図。ADCからペイロードが放出され、遊離ペイロードが周囲のがん細胞にも浸透します。

また、同じペイロードとリンカーを様々な抗体と組み合わせることで、異なる標的を狙った薬剤に展開することが可能である点も当社ADC技術の特徴です。

3.3つの主力ADC(3ADC)

T-DXd(抗HER2 ADC)イメージ図

エンハーツ®/T-DXd/DS-8201
(抗HER2 ADC)


Dato-DXd(抗TROP2 ADC)イメージ図

Dato-DXd/DS-1062
(抗TROP2 ADC


HER2-DXd(抗HER3 ADC)イメージ図

HER3-DXd/U3-1402
(抗HER3 ADC)


エンハーツ®(抗HER2 ADC)
HER2陽性乳がん3次治療の適応で、日米に続き、欧州でも2021年2月に発売。(新たな適応としてHER2陽性胃がんの承認(日本:3次治療、米国:2次治療)を取得。アストラゼネカとの本製品に関する戦略的提携のもと、乳がん、胃がん、肺がん、大腸がんなどで開発を推進中。

Dato-DXd(抗TROP2 ADC)
標準治療の後に再発した肺がんや、トリプルネガティブ乳がんを中心に、アストラゼネカとの本製品に関する戦略的提携のもと、複数の臨床試験を推進、Actionable遺伝子変異なしの肺がんでは、ピボタル試験※1を実施中。

HER3-DXd(抗HER3 ADC)
特定の遺伝子(EGFR)変異を持った肺がん(3次治療)でのピボタル試験に加え、大腸がん(3次治療以降)、HER3陽性乳がんを対象に複数の臨床試験を推進中。肺がんにおける他剤との併用試験も計画中。

  • ※1ピボタル試験:新規の治療薬または治療法において有効性を示す根拠となり、後の治療を変えうるような重要な中核となる試験

(2021年5月現在)

4.3ADCに続くADC

当社のADC技術の汎⽤性の特徴を最大限に活用し、同じペイロードとリンカーを様々な抗体と組み合わせたADCが他にも4つ(合計7つ)あり、DS-7300(抗B7-H3 ADC)、DS-6157(抗GPR20 ADC)、DS-6000(抗CDH6 ADC)も臨床試験を開始しています。
このように、当社のADC技術は「3 and Alpha」を将来、「4 and Alpha」、「5 and Alpha」 へと発展させるポテンシャルを秘めています。また、当社のADC技術を更に発展させた次世代ADCの研究にも取り組んでいます。

※1 臨床開発段階にあるプロジェクト(2021年7月現在)

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