Backstory03 創薬研究からのバトンをつなぐ(前編)

2人の集合写真
プロセス技術研究所 研究第二G グループ長 岡野克彦Katsuhiko Okano
製剤技術研究所 創剤研究第二G グループ長 荒井宏明Hiroaki Arai
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製薬技術研究とは、創薬研究で創製された新薬の種を安心、安全、安価に世界の患者さんに届けるための工業化研究のこと。 創薬を担う研究所で生まれた成果を医療現場に届けるためには、研究室内での小さいスケールの製造方法を発展させ、工場で安定的に生産できる製造方法の開発や、生産体制の整備が必要となる。そうした技術面の研究を担うのは、テクノロジーユニットの役割だが、長年創薬に取り組んできた第一三共も、ADCにおいては製薬技術や生産技術の研究体制が整っていないゼロからのスタートだった。

自社完結の強みを活かす

研究室で誕生したADC技術を、工場で高品質かつ安定的に生産できるようにするため、まず達成しなければならなかったのは、抗体と薬物を確実につなげることだった。研究室のスケールで行っていたことを、工場のスケールで高精度に再現するためには、様々なハードルがあった。「抗体に複数の薬物をつなげるのですが、安定した品質で狙った数を確実につなげるために、大量のデータをとって解析し、いろいろな条件を変えて試行錯誤を繰り返しました。つなげることができたら、次は同じ条件で大量に生産する方法を考えなければなりません」と語るのは、有効成分の生成を担当する岡野さん。

抗体と薬物を繋げるためのリンカーを製造・供給する体制も含めて、工場をどのように設計するのか。製造レシピやスケジュールなど、生産体制を整えるまでに検討しなければならないことが無数にあった。

第一三共の“ものづくり”を担うテクノロジーユニットは、新薬の生産に必要な製薬技術を開発して、臨床試験に使用する治験薬から商用品の生産に至るまで、製品の品質確保と安定供給のために尽力している。ADC技術の確立に対しても、製薬技術のメンバーは、創薬を担う研究所や商用生産を行う工場と連携し、一丸となって取り組んだ。

「今回のように初めての技術を扱う場合、何も情報がない中で突然バトンを渡されるような状況であれば、非常に苦しんだと思います。一方で、当社のADCのように創薬の研究・開発から製薬技術、生産まで一気通貫で行っていれば、研究部門でいまどのような薬を開発しているのか、どんな課題があるのか、いつまでに何が必要なのか、ある程度、準備をしておくことができます。顔が見える距離で一緒に考えることができる。そんな社内の風通しの良さも大きな強みだと思います」

岡野さん
製剤研究の様子

「サイエンスの前ではみんな平等」

第一三共の社員には「サイエンスの前ではみんな平等」という共通認識がある。たとえ相手が上司や先輩であっても、自由に意見を言える文化があるという。

「役職や経験を超えて対等な議論ができるので、これをやらなければいけないと一つの方向が定まった時に、結束できる力が強い。このことが技術開発のスピードを押し上げたのだと思います」

創薬のみならず、製薬技術の研究開発に携わる人にとっても、臨床試験での成功は大きな喜びだ。しかし、大切なのはそれを医薬品として形にして、最終的に一人ひとりの患者さんのもとに届けるということだ。

「創薬のメンバーは、今まで治らなかった病気を治そうと努力しています。私たちは、いかに早く患者さんに届けるか、創薬と一体になりながら情熱をもって取り組んでいかなければなりません。安定生産できて、自分たちの手を離れていく。その様子を見るのが一番の楽しみです」

※所属等は掲載当時の情報

2人で対談

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