1989年に第一三共の前身である三共に入社した柏瀬さん。12年間にわたり研究に従事した後、本社企画部門での戦略立案、三共と第一製薬の経営統合プロジェクト、米国子会社への赴任、製薬技術やサプライチェーン部門のリーダーなど、さまざまな経験を積んできました。
特に印象に残っているのが、研究所から本社へ異動したときのこと。配属された企画部門は、それまで聞いたことのなかった経営用語が飛び交うような環境で、はじめは周囲の話についていくのが必死だったと当時を振り返ります。
「研究所ではずっと専門領域の中で仕事をしていたので、知識と経験に基づいた専門性という名の“鎧”に守られている感覚がありました。その鎧を脱ぎ捨て、生身の自分として勝負していかねばならない状況に身を置いたとき、自分に一体何ができるのかと考え始めました。」
企画部門の仲間たちが、会社をより良くするための企画や戦略を考えて積極的に提案する姿を見て、柏瀬さんは「じっと考えているだけではだめだ。とにかく動き出さなければ」と一念発起。部内を見渡し、逡巡している人がいればディスカッションしたり、忙しそうな人には、何か手伝えることがないか聞いたり、自分にできることがないかを探して飛び込んでいく、ただただ、そのように行動していました。その経験が、自分自身を強くしたと柏瀬さんは話します。
「その後もさまざまな部門への異動を経験しましたが、新しい場所で新しい仕事に挑戦することをポジティブに捉えられるようになりました。『うまくやらなきゃ』と力み過ぎずに『何とかなるさ』と前向きに考え、まずは小さな一歩を踏み出してみること。そこからコツコツと自分にできることを続けていくことが大切なのだと学びました。」

第一三共ブラジル 工場の起工式で、工事を記念する石碑をお披露目。
同社社長のMarcelo Gonçalvesさん、工場長のGilberto Hayashiさんと
柏瀬さんは2023年4月、旧バイオロジクスユニット、製薬技術ユニット、サプライチェーンユニットが統合して新設された、テクノロジーユニットのユニット長に就任。テクノロジーユニットの役割は「高品質な薬をつくり安定して患者さんに届けること」であり、そのプロセスは「治験」「商用」の大きく2つに分かれます。
これまでは「治験薬の製造・供給」から「商用製品の生産・流通」へと各ユニットがバトンを渡す形で進めていましたが、特にがん領域では開発スピードの加速化が進んでいるため、治験と商用の対応を同時進行する必要があり、ユニットを跨いで情報共有し、今までの枠にとらわれない形で業務分担を行うなど、より密に連携していくことがより重要となっています。そこで、治験から商用までの業務に関わる技術部門が集結した「テクノロジーユニット」が誕生したのです。
「テクノロジーユニットのコンセプトは『治商一体』です。工業化製法の開発、治験薬の製造から商用生産・市場供給まで切れ目のないプロセスにすることで、効率的かつ安定的に高品質な薬を患者さんにお届けする体制を構築しています。成果が出るのはこれからですが、すでに『これまでの枠を越えた意見交換がしやすくなった』『ものごとを多面的に捉え、議論するようになってきた』などの声が届いています。これからも私たちテクノロジーユニットが第一三共のものづくりを、自信を持って支えていきます。」
また、2025年4月には、第一三共の医療用医薬品や治験薬の製造を行う第一三共プロファーマと第一三共ケミカルファーマが第一三共に吸収合併されることから、「薬をつくる」という役目を担う仲間が一つの会社に集うことに。これについて柏瀬さんは「ものづくりの力を高めるとともに、キャリアの幅を広げる良い機会になるでしょう」と期待を寄せます。
「薬をつくって患者さんに届けるまでには、研究開発、薬事、製造、品質保証、流通などさまざまな機能が必要であり、各機能は密接につながっています。新たな組織体制のもと、部門を越えた行き来が活発になり、相手の仕事をより身近に感じることで、自分自身のキャリアの可能性を大きく広げていってほしいと思っています。私自身も専門領域の研究を経て、新たな場所に飛び込んだことで視野が大きく広がりました。一人ひとりの適性や経験に合わせて、多様なキャリアを歩める環境をつくっていきたいと考えています。」
ダイバーシティを活かした強い組織をつくるために
これまでを振り返り、柏瀬さんは仕事をするうえで常に心がけてきたことがあると語ります。
「もし誰かが困っていたら、何か問題が起きたら、『自分には何ができるか』をすぐに考えるようにしています。『こんなときはこうすればいいのでは』という思考を持っておくと、いざという時に動き出しやすいですし、実際に行動を起こすことはなくても後々役に立つことがあるからです。
メンバーの皆さんにも『身の回りで起こることはすべて自分事として捉えよう』と日頃から伝えています。目の前で起こっていることを、「自分ならどうするか」真剣に考えることは、たとえ今回は直接問題解決にかかわらなかったとしても、必ずや糧となり、自分の経験値を上げ、成長につながる力になるはずです」
宮大工の本から組織づくりを学ぶ。週末は涙活でリフレッシュする。
プライベートでは、家族と映画館に行って「涙活」でリフレッシュしているという柏瀬さん。
毎月のように映画館に通うこともあり、お気に入りは2022年のアカデミー賞3部門を受賞した『コーダ あいのうた』。「家族の中で唯一の健聴者の少女が歌手になる夢を追い、やがてそれが家族の夢になるという感動的なストーリーで、大いに涙活してきました」と笑顔を見せます。
また、お気に入りの本は『木のいのち木のこころ〈天・地・人〉』。法隆寺の宮大工だった西岡常一さん、弟子の小川三夫さん、小川さんがつくった宮大工集団「鵤工舎」の若者へのインタビューをまとめたもので、柏瀬さんはこの本から「組織づくり」を学んだと語ります。
「親方の西岡さんは寺社仏閣の構造や建築方法を徹底的に突き詰めた方で、地震大国の日本で、1300年経ってもびくともしない木造建築の法隆寺について深く考察されています。本の中では、『一本一本の木に個性があり、その個性を活かして組み上げていくことが大切である』といったことが書かれており、私はこの本の教えを、強い組織をつくるためにリーダーがなすべきこととして理解し、繰り返し肝に銘じています。
ダイバーシティを活かした組織をつくるために、メンバーを深く理解しようと努力し、対話を続けていくことはリーダーの役目です。そして一人ひとりが自信を持って仕事に邁進し、第一三共の一員であることを誇りに思える、そんな会社を一緒につくっていきたいです。」