
コジ・ファン・トゥッテでフェルランド役は
Ericさんのお気に入りの役でした
理学修士・公衆衛生学修士であるEricさんは、かつては舞台芸術の「トリプルスレット(triple threat=三拍子そろったパフォーマー)」として、10年間、演技・歌・踊りの修行を積み、クラシック声楽家となりました。ニューヨーク・マンハッタンにある世界最大級のオペラハウス、メトロポリタンオペラのアーティストたちと稽古をする機会を得て、フィガロの結婚と同じ、モーツァルト作曲、ロレンツォ・ダ・ポンテが台本のオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」でフェルランド役を演じるなど、多くのオペラ作品に出演。しかし、その後、舞台を去り、新たな挑戦に踏み出します。
Ericさんは、その挑戦を、ファイザー社の薬事部門から始めました。そして、米国の薬事戦略やライフサイクルマネジメントのための臨床試験計画の審査などの要点を学ぶと共に、薬事・品質保証、公衆衛生の分野のそれぞれで上級学位を取得します。その後、20年間、グラクソ・スミスクライン社、アストラゼネカ社、ブリストル・マイヤーズスクイブ社などで薬事関連のさまざまな役職を歴任し、ステップアップしていきました。
現在は、第一三共のグローバル薬事ヘッドとして、革新的な医薬品を少しでも早く患者さんに届けられるよう、薬事戦略を練り、承認申請をスピーディーに進めることを目指しています。
芸術と医薬品開発の共通点
全く異なる分野から製薬業界に足を踏み入れたEricさん。しかし、舞台芸術から転向してすぐに、医薬品開発の習得でも、ピアニストと同じトレーニング法が有効だと感じたそうです。ピアニストは、曲を最初から最後まで一度に暗譜して習得するのではなく、いくつかのパートに分け、時間をかけて弾けるパートを増やしていきます。この手法を、医薬品開発について学ぶ際に応用したのです。
Ericさんは、入手できる情報はすべて吸収し、未知の国や地域、病状、科学分野などについて、新しいことを学ぶ機会があれば決して逃さず、時間をかけて一定水準の専門知識を身につけていきました。その知識の吸収力から、周囲からは「スポンジ」と呼ばれるほどだったそうです。
分子生物学であっても生物統計学であっても、そして米国、欧州、中国、日本における当局の規制についてであっても、小さなパートに分けて少しずつ情報を習得していきました。データや科学、そして医薬品開発には、その複雑さや流動性、常に進化し続ける性質も含めて、強い関心を持っていますが、何より好きなのはオンコロジー。その開発のスピード感に惹かれています。
経験と鍛錬が未来のイノベーションを促す
Ericさんはこれまでのキャリアの中で、オンコロジー分野で開発スピードが最も速い医薬品に携わる機会を得ました。その一例が、がん細胞の増殖を促すタンパク質であるHER2を標的とする、第一三共のADC(抗体医薬複合体*)です。このADCは、米国で初めて承認された2019年当時、オンコロジー分野では最速で承認されたバイオ医薬品の1つで、特定の種類の乳がん治療において現在30以上の国・地域で承認されています。そして、第一三共は、HER2を発現する、さまざまながんの患者さんの治療薬として、このADCの適応症を更に拡げようとしています。そのために、Ericさんはチームとともに世界中の薬事規制当局に働きかけ続けています。
Ericさんは、「第一三共には、このすぐれた医薬品を患者さんに届けてきた経験や教訓を活かす機会がある」と言います。また、他社で働いた経験、異文化の人たちと仕事をした経験、異なる医薬品に携わった経験などは、将来も大きく活用することができると信じています。しかし、経験は圧倒的なメリットとなり得る一方で、その経験に縛られないことも重要だと語ります。
「企業、文化、置かれた状況、医薬品はそれぞれ独自のものです。だからこそ、それぞれの経験は決まった型としてではなく、応用可能なツールとして捉えることが大切です。しかし、医薬品が臨床的に有効であると証明する時には、過去の経験から得た情報を取り入れることで、患者さんたちに、より早く薬を届けることが出来るはずです」
―Eric Richards、第一三共シニアバイスプレジデント兼グローバル薬事ヘッド
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