湘南アイパークの交流スペース(キャンプ)で談笑する両社のメンバー

「患者さんと共に」を当たり前にするために ~「非臨床段階からの創薬活動におけるPatient Engagement(PE)ガイドブック」を作成~

2022年09月02日
Patient Centricity
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近年、欧米の製薬企業を中心に、医薬品の開発を進める時に患者さんの声を取り入れるPatient Engagement(患者との協働、以下PE)というアプローチが取られるようになってきました。さらに、より患者さんのニーズにあった医薬品を作るためには、創薬研究の初期段階から、患者さんが病気の症状や治療を受ける中で何に困っているのか、日常生活を送る上で何を改善したいのか、を理解することが重要であるということが認識されるようになってきています。しかし、実際に製薬企業の創薬研究に関わる社員が患者さんと直接交流しようとすると、気をつけるべき点が数多くある上、参考になるガイドライン等は非常に少なく、研究段階におけるPE活動については、世界的にも最近ようやく進められたところというのが現状です。

そこで、PEをテーマに数年前から一緒に活動していた武田薬品工業と第一三共が協働し、製薬企業の創薬研究に関わる社員が、医薬品の研究開発の一環として患者さんと交流する際に留意すべき法律や倫理上気をつけるべき点、お互いの信頼関係構築に必要なことなどをまとめた「非臨床段階からの創薬活動におけるPatient Engagement(PE)のためのガイドブック」を作成しました。

ガイドブックはどのような問題意識のもとで作られ、今後どのように活かされようとしているのか。ガイドブック作成に携わった両社のメンバーにガイドブック完成までの道のりについて聞きました。

<座談会参加メンバー>
武田薬品工業PCET

國貞理恵さん
福田広美さん

第一三共COMPASS

岡田史彦さん
宮野安紀子さん

武田薬品PCETの國貞さんと福田さん

武田薬品PCETメンバーの國貞さんと福田さん(左から)

まずは「患者さん中心」「患者さんとともに」という考え方を提示する

武田薬品工業ではPCET(Patient Centricity Expansion Team)、第一三共ではCOMPASS(Compassion for Patients Strategy)と呼ばれる部門横断的なチームで、社員が患者さんの日常生活や困りごとなどへの理解を深める活動をそれぞれ進めていました。

國貞(武田薬品工業):PEを推進していく上で、患者さんの声を聞くことは不可欠です。しかし、社内外のルール・規制が非常に厳しく捉えられてきたことと、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が作成した「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」も主に開発以降のことを取り扱っており、非臨床段階となると、どのようにすればよいのかの情報も限られていたため、研究者が患者さんと対話するには高いハードルがありました。

両社は2014年からお互いの研究者を中心に、非競合領域での協働を推進しようと一緒に活動してきました。2019年12月、「患者さんを中心とした医薬品開発とは?」をテーマにした合同ワークショップで、製薬企業がPatient Centricity(患者中心主義)やPEを推進するためのアイデアをグループワークで考えたところ、研究者が患者さんと協働する際に「やっていいこと/やってはいけないこと」を整理したガイドブックの 作成がワークショップのアイデアの一つとして提案されました。これがガイドブック作成を実行するために、会社の壁を越えてPCETとCOMPASSが手を組むことになったきっかけです。

岡田(第一三共):患者さんと交流する時は、薬機法*の規制や個人情報保護法などの遵守は当然ですが、お互いの信頼関係を築くためにはそれ以外にも必要な課題があることが、今までの経験から分かっていました。そこで、PCETとCOMPASSそれぞれが蓄積してきたノウハウや経験を共有し、患者さんとの協働の指針をまとめたガイドブックを作成することにしました。

*医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

こうして2020年から取り掛かったガイドブック作成ですが、PCETとCOMPASSの目指す方向性が一致していたので、会社は違っていても非常にスムーズに進み、メンバーにとっても気づきの多い取組みとなりました。

宮野(第一三共):経験豊富なメンバーの皆さんの専門知識を言語化し、体系化する作業はチャレンジでした。PCやPEなどの用語の定義を試みて議論しながら、社内外の関係者による幾度ものレビューを重ねて完成しました。初版公開後の後日、武藤香織さん(東京大学医科学研究所)からは、「用語の定義にはこだわらず、まずは考え方を提示するのが大切。医師中心(Physician Centricity)の現実から、患者の主体性重視に転じたこと自体が進歩なのだから」という趣旨のアドバイスをいただきました。

合同ワークショップで講演いただいた桜井なおみさん(キャンサー・ソリューションズ株式会社)からもアドバイスをいただきながら、2021年4月に「創薬活動におけるPatient Engagement(PE)ガイドブック」が完成、リリースすると、同業他社や学術機関、患者団体などさまざまなステークホルダーから反響がありました。

福田(武田薬品工業):ガイドブックは桜井なおみさんの他、日本難病・疾病団体協議会(JPA)にも監修いただき、患者団体の視点も取り入れました。またピー・ピー・アイ・ジャパン(PPI JAPAN)さんの「みんなのラジオPPI」に國貞さんと岡田さんが出演したところ、複数の製薬会社からガイドブックを見たいという申し出があり、反響があったのはありがたかったです。

第一三共COMPASSメンバーの宮野さんと岡田さん

第一三共COMPASSメンバーの宮野さんと岡田さん(左から)

コロナ禍で両社の連携はさらに強く、深く

折しも、新型コロナウイルスの流行が始まるタイミングと重なる形で進んだガイドブックづくり。しかしむしろ、リモートワークの拡大によって効率が上がり、お互いの絆も深まっていきました。

岡田(第一三共):コロナ前は毎回対面の日程を調整するのが大変でしたが、オンラインでの打ち合わせが普通になったことで、物理的な距離や時間の制約が少なくなりました。社内も社外も関係なく進められるようになったのは大きかったですね。ワークショップで議論をしただけで終わらせず、具体的な活動に繋げて成果を出せたのが良かったです。

福田(武田薬品工業):両社にとって良いタイミングでしたし、何と言ってもメンバーが素晴らしかったです。この活動がメインの業務ではないのに、皆さんとても積極的で、それぞれの方々にPatient Centricity & Engagementについて芯の通った思いがあったからこそできたのだと思います。

國貞(武田薬品工業):雰囲気が良かったですね。PCETのロゴのステッカーをCOMPASSメンバーが自分のパソコンに貼ったりしてね(笑)。研修所での1泊2日の合同ワークショップも思い出深いです。

湘南アイパーク入口の羅針盤モニュメント前での集合写真。宮野さん、國貞さん、岡田さん、福田さん

アイパーク入口のモニュメント。偶然にも羅針盤=COMPASSです。

最終目標は「創薬に患者さんの目線を取り入れること」

両社は2022年9月、各所から寄せられたフィードバックを盛り込んで、ガイドブックの改訂を完了しました。ガイドブックの名称も「非臨床段階からの創薬活動におけるPatient Engagementのためのガイドブック」に改め、また、ガイドブックに沿ってPEを実践する場として、複数の製薬企業が協働で開催する患者さんとの対話イベント*「Healthcare Café」の開催を予定しています。

岡田(第一三共):Healthcare Caféを通じて、ノウハウを1社で持つのではなく、それぞれの会社でPEへの理解を深める機会を増やして、お互いに学びを深めていきたいです。創薬の出発点は患者さんを知ること。COMPASS活動もPEガイドブックも、患者さんに求められる薬を作るための手段であって、ガイドブックの作成自体、COMPASSの活動自体が目的になってはいけないと肝に銘じています。

國貞(武田薬品工業):PEガイドブック発行時に両社の社内向け合同イベントの際にもお話しましたが、私たちの目的はあくまでも「必要な薬を早く患者さんにお届けすること」です。「創薬に患者さんの声を取り入れること」「そのために研究者が患者さん目線というレンズを持つこと」を意識しながら、自分の専門性と合わせてイノベーションを起こすことが、私たちにできることだと思っています。

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武田薬品PCETのPatient Engagementガイドブック作成メンバー

武田薬品 PCETのPEガイドブック作成メンバー

第一三共 COMPASSメンバー

第一三共 COMPASSのメンバー

非臨床段階からの創薬活動におけるPatient Engagement のためのガイドブック(改訂第二版)

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