「3ADC」の3Dモデルと、がん闘病中の患者さん(イメージ)

ADC開発ががん治療の可能性を切り開く

2020年10月09日
Our Science
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がんは細胞分裂の“暴走”が引き起こす病気

私たちの体はおよそ数十兆個の細胞から構成されています。それらの細胞は分裂と増殖を繰り返しながら、つねに正常な状態を保っています。ところが遺伝子変異などの理由によって、この分裂と増殖の制御が効かなくなることがあります。腫瘍とはこうした異常増殖によって生み出された細胞のかたまりのこと。その場で増殖するだけならがんではない良性腫瘍ですが、近くの組織に広がったり(医学用語で浸潤)、血管などを通って他の臓器に移動(同・転移)したりする腫瘍を悪性腫瘍=がんと呼びます。
2018年には約1808万人が新しくがんになり、およそ956万人もの方々が亡くなりました(WHO国際がん研究機関調べ http://gco.iarc.fr/today/fact-sheets-cancers )。
がんができる部位を見ると肺と消化器(胃、大腸、肝臓)が多く、女性に限ると乳がんや子宮頸がんの割合が多くなっています。
ほとんどのがんはそのまま放置していると全身に広がっていきますので、がん治療には早期発見が大切です。早めに治療をしても再発する可能性があるというやっかいな性質を有する病気でもありますが、決して治らない病気ではありません。現在のがんの治療は、複数の治療法を組み合わせた集学的治療が主流になっています。

不断の研究開発によって刻々と進化しているがん治療

がんの治療法としては、まず病巣や転移部分を手術によって切除する「外科的療法」、病巣にX線などの放射線を照射してがん細胞を死滅させる「放射線療法」があり、これらは病巣部に限定した治療なので〈局所療法〉と呼ばれます。もうひとつ〈全身療法〉と呼ばれるのが、いわゆる抗がん剤(化学療法剤)を使った「薬物治療」。点滴や注射、内服によって投与された薬剤が血液を通して全身をめぐるため、手術が難しいごく小さな転移にも効果があります。ただし薬物は正常な細胞にも影響を及ぼし、これが脱毛、吐き気、倦怠感、さらには肝臓や腎臓など臓器への障害といった副作用としてあらわれます。副作用による患者さんの負担を軽減するため、近年はがん細胞だけに作用する「分子標的薬」の開発が進んでおり、次々に実用化されています。
分子標的薬のうち、特に注目されているのがADC(Antibody Drug Conjugate=抗体薬物複合体)です。従来の分子標的薬は副作用が少ないかわりに、薬の効果が不十分な場合がありました。一方ADCは、がん細胞に選択的に結合する抗体にがん細胞を特異的に攻撃する薬物を合わせたもので、抗体医薬品と化学療法剤のそれぞれの長所を併せ持つ構造の薬剤になっています。

革新的創薬への情熱でがん治療の新たな地平を拓く

創薬企業の重要な使命の一つは、有効な治療方法がない疾患に対するニーズ、いわゆるアンメットメディカルニーズに応える新薬創出です。もちろん抗がん剤もその一つで、未だに有効な抗がん剤がないがん種があるなど、解決していかなければならない課題がまだ多く残されています。
第一三共は100年以上の歴史の中で数々の革新的な創薬を手がけてきた2つの企業が統合して生まれた企業です。私たちは現在も世界中で増え続け、多くの患者さんを苦しめているがんへの挑戦を、21世紀の創薬企業として取り組まねばならない最重要課題と捉えています。
そこで「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」への転換を「2025年ビジョン」として掲げ、全社一丸となってADCなどのがん事業に力を注いできました。
第一三共では、長年に亘って自社オリジナルADCの研究開発を進めており、その成果として生み出されたのが当社のHER2に対する抗体薬物複合体です。効果を初めて確認した乳がんに対する臨床試験に続いて、乳がん、胃がん、肺がんを含む多発性HER2標的がんに対するADC単剤療法の有効性と安全性を評価する6つの主要な臨床試験がグローバルで進行しており、既に国内外のADC研究者に大きなインパクトを与えています。
第一三共は実績に甘んじることなく、今後も世界が注目するハイレベルな研究開発力で、がんで苦しむ患者さんやご家族の期待に応える革新的な創薬をめざしていきます。
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