2007年11月04日
研究開発情報

各位

会社名 第一三共株式会社
代表者 代表取締役社長 庄田 隆
(コード番号 4568 東証・大証・名証各第1部)
問合せ先 執行役員コーポレートコミュニケーション部長 高橋 利夫
(TEL:03-6225-1126)

極めて重要な第3相実薬対照比較臨床試験において、 心臓発作のリスク軽減に関して、抗血小板剤プラスグレルの クロピドグレルに対する統計的優越性が判明

プラスグレルが重篤な心血管イベント発生リスクを19%減少

 

出血の増加が認められるものの、リスクベネフィットを勘案した

 

正味の臨床的有用性は有意に改善




本日、米国フロリダ州オーランドで開催された米国心臓協会(AHA)の学術大会において、欧米で第一三共株式会社(以下、第一三共)とイーライリリー・ア ンド・カンパニー(以下、イーライリリー、本社:米国、インディアナ州 NYSE:LLY)が共同開発を行っている抗血小板剤プラスグレルの第3相臨床試験(TRITON TIMI-38)の結果が報告されましたので、お知らせします。

プラスグレルは、クロピドグレル(Plavix(R)、Iscover(R))との比較において、経皮的冠動脈形成術(PCI:percutaneous coronary intervention)を受けた急性冠症候群(ACS:acute coronary syndrome)患者の「心血管死」、「非致死性心臓発作」、「非致死性脳卒中」の複合評価項目の相対リスクを、統計学的有意性をもって、19%減少さ せたことが明らかになりました(p=0.0004)。

クロピドグレル(負荷用量300 mg/維持用量75 mg)に対するプラスグレル(負荷用量60 mg/維持用量10 mg)の複合評価項目に関する有意なリスク減少は、試験開始後3日目には確認され、この差は15ヶ月間の臨床試験終了までの間、拡大し続けました。
サブグループ分析において臨床上で重要と考えられる糖尿病患者群では、プラスグレルにより、「心血管死」、「非致死性心筋梗塞」、「非致死性脳卒中」に関 する相対リスクが30%減少しました(p<0.001)。加えて、副次評価項目における主要項目のステント血栓症(ステント留置部位で発生した血 栓)でもプラスグレルは、その再発を52%減少(P<0.0001)させるという顕著な結果を示しました。

また、TRITON試験によって、プラスグレル治療群では、「心血管死」、「非致死性心臓発作」、「非致死性脳卒中」関連のリスクをSTEMI(ST上昇 型急性心筋梗塞もしくは高リスクの心臓発作)患者においても統計的に有意な差をもって21%減少(P=0.02)させ、UA/NSTEMI(不安定性狭心 症もしくは胸痛/非ST上昇型心筋梗塞)患者では18%減少(P=0.002)させることがわかりました。さらにプラスグレル投与群では、緊急標的血管再 血行再建術(血管の梗塞部位を再開通させる術式)を34%減少(p<0.001)させ、心臓血管に起因する発作死を42%減少(p=0.02)させ ることもわかりました。

本試験における、非冠動脈バイパス術(non-CABG:non coronary artery bypass grafting)での出血例は、プラスグレル投与群、クロピドグレル投与群のいずれにおいても少数でしたが、プラスグレル投与群ではクロピドグレル投与 群と比較して統計的有意差をもって重度出血例が多く(プラスグレル投与群およびクロピドグレル投与群の発現率はそれぞれ2.4%と1.8%、症例数ではそ れぞれ146人と111人 p=0.03)見られました。そのうち生命に関わる出血に関しても、プラスグレル治療群において発生頻度が高くなりました(発現率はそれぞれ1.4%と 0.9%、症例数ではそれぞれ85人と56人 p=0.01)。発現頻度はまれではありますが、致死性の出血例については、プラスグレル投与群はクロピドグレル投与群よりも、統計的有意差をもって多い ことがわかりました(発現率はそれぞれ0.4%と0.1%、症例数ではそれぞれ21人と5人 P=0.002)。しかし、一方で、心臓血管に起因する死亡例はプラスグレル投与群の方が、クロピドグレル投与群よりも、少ないこともわかりました(発現 率はそれぞれ2.1%と2.4%、症例数では133人と150人 p=0.31)。その他の原因による死亡も含めた総死亡例も同様に、プラスグレル投与群の方が少ないことがわかりました(発現率はそれぞれ3.0%と 3.2%、症例数では188人と197人 p=0.64)。

TRITONでは、プラスグレル、クロピドグレルの投与により、重度出血のリスクが他の治療群より高い、3つの治療群を特定しました。75歳以上の高齢 者、体重60 kg以下の患者、一過性脳虚血発作(TIA)または脳卒中の既往歴を持つ患者群がそれにあたります。研究チームでは、特定の患者群に対しては、プラスグレ ルの用量をより下げる方が適切かどうかを判断するために、TRITONを含むプラスグレルの複数の臨床試験における薬物動態データを現在検証しています。 上記リスク因子を持たない患者(TRITON試験 13,608人の80%に相当)では、プラスグレルとクロピドグレルを比較した際の重度出血例に統計的有意差は見られませんでした(それぞれ2 %と1.5%,p=0.17)。

全死亡例、心臓発作発現例、脳卒中発現例、重度出血発現例による複合評価項目を用いた分析に基づくと、プラスグレルはクロピドグレルより複合イベント発生 率を統計的有意差をもって13%減少させたことがわかり、リスク、ベネフィットを勘案するとプラスグレルの臨床上の正味の有用性が示されました(イベント 発生率はそれぞれ12.2%と13.9% p=0.004)。出血リスクが高いと判断された治療群では、プラスグレルとクロピドグレルで臨床上の正味の有用性における有意な差は見られませんでした (p=0.43)。上記の出血リスクの高い治療群を除くと、プラスグレルの臨床上の正味の有用性は、クロピドグレルよりも20%優れることが示されました (イベント発生率はそれぞれ10.2%と12.5%,p<0.001)。

1,000人あたりのプラスグレル投与患者とクロピドグレル投与患者で比較すると、全体として、プラスグレル投与群では、心臓発作例が23件少なく、重度の出血例が6件多いことになります。

「我々が行ってきた今回の臨床試験は、冠動脈ステント術を受けている患者に対する抗血小板剤治療として、プラスグレルがクロピドグレルの標準用量に比べて 優れるという確固たるエビデンスを立証しました。この有望な薬剤を用いた治療法のための明確なガイダンスを確立する一助とすべく、TRITONやその他の 試験データを基に、特定の出血リスクを持つ患者群を明確にしたいと考えております。」と、ハーバード・メディカル・スクール TIMIスタディーグループのシニア・インベスティゲーターであり、ボストンにあるブリガム・アンド・ウィメンズ・ホスピタルのサミュエル・A・レバイン 心臓部の部長であるエリオット・アントマン博士は述べています。

アントマン博士は、本日、米国フロリダ州オーランドで開催されている2007年米国心臓協会学術大会において、本試験結果を発表いたしました(abstract 07 LBCT-20660-AHA)。プラスグレルは第一三共とイーライリリーが共同開発しています。

イーライリリーのプラスグレル開発責任者であるJ. アンソニー・ウェア博士は「TRITONのデータは、心臓発作を防ぐ上で我々の新たな抗血小板薬のクロピドグレルに対する優越性を示しており、プラスグレ ルとクロピドグレルの直接比較試験をデザインした我々の判断が正しかったことを立証するものです。我々は試験結果を大変嬉しく思っており、また本薬剤の更 なる可能性を信じております。プラスグレルによる治療法をさらに向上させ、本薬剤から得られる利益を最大化したいと考えています。」と、語っています。
心臓血管疾患は、米国および世界の主要な死因となっており、毎年、1,670万人が亡くなっています(i)。毎年84万人以上のアメリカ人が急性冠症候群 と呼ばれる急性の心臓発作および不安定狭心症を発症しており、ヨーロッパでも80万人が発症しています(ii,iii)。既存の治療を受けた患者であって も、毎年米国で、30万人が心臓発作を再発し、45万人が心臓発作が原因で亡くなっています(iv)。

「TRITONは、『第3世代の経口抗血小板剤』としてのプラスグレルの臨床ベネフィットの優位性を実証しました。今回の結果は、今後の心臓血管治療を向 上させると期待しております。TRITONでの将来性のある今回の結果を受け、第一三共とイーライリリーでは、承認申請資料を早急にとりまとめており、今 年末までに米国食品医薬品庁(FDA)への申請を引き続き目指しております。」と第一三共のグローバル研究開発の責任者であるジョン・アレキサンダー博士 は述べています。

TRITON TIMI-38試験について
TRITON TIMI-38 は多施設、無作為、二重盲検法、2群並行、第3相臨床試験であり、経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けている急性冠症候群(ACS)患者においてプラスグ レルとクロピドグレルの有効性を直接比較しました。PCIとは、冠動脈へのステント留置などで、冠動脈の狭窄を開く治療法です。本臨床試験には、30カ 国、707施設で、13,608名の患者が登録されました。

TRITONの主要評価項目は、心血管死、非致死性心臓発作、非致死性脳卒中を複合的に評価し、PCI施行後最低12ヶ月間の中央値での追跡試験期間にお いてプラスグレルとクロピドグレルの有効性を比較するものでした。主要な副次評価項目には、心虚血性イベントによる再入院、30日後における再灌流のため の追加治療(緊急標的血管再血行再建術)の必要性、およびステント血栓症の発症が含まれていました。主な安全性評価項目には、プラスグレル全般としての安 全性や認容性の他、非冠動脈バイパス術治療時の重度出血、生命に関わる出血、または、軽度の出血が挙げられます。

TRITONでは、患者をプラスグレル投与群かクロピドグレル投与群に無作為に割り付け、割り付けとPCIの終了後1時間の間に60mgのプラスグレル、 もしくは承認用量である300mgのクロピドグレルを負荷投与しました。その後は、プラスグレル10mg、もしくはクロピドグレル75mgの維持投与を行 うとともに、全患者に毎日、低用量のアスピリンを投与しました。

抗血小板剤は、疾患動脈にて発生する血小板の活性化およびその後の凝集を抑制するために、急性期治療および維持治療のいずれにおいても重要です。また、PCIのような侵襲的処置の補助治療としても重要です。

プラスグレルについて
プラスグレルは、第一三共と宇部興産株式会社(コード番号:4208)が発見し、第一三共とイーライリリーが共同開発している経口抗血小板剤であり、まず はPCIを受けている急性冠症候群(ACS)患者への治療法として開発されています。プラスグレルは、血小板表面でP2Y12 アデノシン二リン酸(ADP:adenosine diphosphate)受容体を遮断し、血小板の活性化および凝集を抑制します。抗血小板剤は、動脈硬化および心臓発作、脳卒中を引き起こす可能性のあ る血小板の凝集を防ぎます。

イーライリリー・アンド・カンパニーについて
イーライリリー・アンド・カンパニーは、技術革新を拠り所とする製薬業界のリーディングカンパニーです。全世界の自社研究所や提携する優れた研究機関から もたらされた最先端の研究成果を応用することで、ファースト・イン・クラス/ベスト・イン・クラスの製品ポートフォリオを構築しています。米国インディア ナ州に本社を構え、医薬品および医薬関連情報の提供を通じて、世界の最も緊急性の高い医療ニーズに応えています。

Plavix(R);/Iscover(R) は、サノフィ・アベンティスの商標です。
(i) World Health Organization. The Atlas of Heart Disease and Stroke - Types of Cardiovascular Disease 2005.
(ii) American Heart Association. Heart Disease and Stroke Statistics - 2006 Update. Dallas, TX. American Heart Association.
(iii) Bertrand CURE study
(iv) American Heart Association. Heart Attack and Angina Statistics. URL: http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=4591. Last accessed July 26, 2007.

以上

to Page Top