Backstory08 次世代ADC開発で繋ぐテクノロジーのバトン(後編)

2人の集合写真
テクノロジー本部 テクノロジー開発統括部
プロセス技術研究所 研究第一G
小倉友和Tomokazu Ogura
テクノロジー本部 テクノロジー開発統括部
製剤技術研究所 研究第一G
多賀洋晃Hiroaki Taga
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量が増えても、誰が何度やっても同じものを

次世代ADC技術を、必要とする患者さんに安定的に届けるためにはどうすればよいのか、という研究もしていかなければならない。
まず、合成法をスケールアップして、製造工場で確実に再現できるようにすることが必要だ。

「例えば、家族のぶんのカレーを作る場合と、1万人ぶんを一つの大きな窯で作る場合とでは、まるで違うと思います。大量になれば、きちんと煮えなくて部分的に硬くなったり、混ざらなくて味が偏ったりしてしまいます。そうならないために、大量生産した場合でも、誰がやっても、何度やっても同じものができるようにしなければなりません。どうやったらスケールアップできるか、それを研究するのも我々の仕事です」(小倉さん)

多賀洋晃さん

薬剤を投与するための部材も、試行錯誤を

薬には、内服剤や注射剤、貼付剤などいろいろな形態がある。最終的な薬剤の形態を検討し、最も効果が発揮できるように、使う人が扱いやすいようにと、さまざまな工夫をしていくのが、多賀さんが所属する製剤技術研究所の役割だ。

取り組んでいる次世代ADCの研究では、薬剤を投与するためのバッグやチューブ等の部材に関連した課題も、発生するという。

部材は様々な素材でできており、素材によってはその薬剤に適さない場合があるため、多くの部材の調査、実験を繰り返して、その薬剤に適したものを見つけ出さなければならない。
また、薬剤を投与するために使用するバッグやチューブは、病院によって異なるため、特殊な部材ではなく、安定的に使用可能なものであるという点も重要だ。

「患者さんの負担や医療従事者が準備する工程等、医療現場の状況を考えながら研究を進めるのが製剤技術研究所の役割です。安心、安全に、高い品質で患者さんに届けられるよう、様々な観点から議論をしています。次世代ADCを高い品質で投与できる部材は何かと、グローバルで調査をして、実験を積み重ねてきました」(多賀さん)

患者さんや医療従事者の負担が少ない、高品質な医薬品を提供していきたいという想いで、さらなる研究に意欲を燃やす。

小倉友和さん

患者さんからの声が励みに

最近、患者さんからの声が、研究所にも伝わることが増えてきた。

「自分たちが考えた製造方法で作った医薬品が患者さんに届いていると感じられるのは、嬉しいです。昔は、化学が楽しい、難しいことはやりがいがある、という気持ちが大きかったですが、自分も結婚して子どもができて家族を持つようになり、大切な命に携われることへの喜びをより強く感じるようになりました」と小倉さん。

小学生の娘さんの学校への送り迎えのとき、「理科が得意なのは、パパが科学者だからと思う」と言われ、うれしさのあまり涙が出そうになったという。

多賀さんも、親戚の集まりがあると、「こんな薬作ってほしい」という話がでることがあるそうだ。
「自分が携わっている仕事は、患者さんの命にかかわっているのだなと再認識するので、患者さんに役に立つもの、優しいものを作りたいという思いで取り組んでいます」(多賀さん)

「私たちは患者さんを想いながら次世代ADCの開発に取り組んでいます。創薬研究の部門からバトンをもらった私たちが、それを製造現場へとつなぎ、最終的に患者さんのもとに届けられるよう形にしていく。一連のつながりを通して“安心・安全・便利”な薬を届けることが、私たちの使命です。これからも、サイエンス&テクノロジーで、患者さんに貢献していきたいです」(小倉さん)

研究者たちの熱い想いと共に、バトンはつながれていく。

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