Backstory07 次世代ADC開発で繋ぐテクノロジーのバトン(前編)

2人の集合写真
テクノロジー本部 テクノロジー開発統括部
プロセス技術研究所 研究第一G
小倉友和Tomokazu Ogura
テクノロジー本部 テクノロジー開発統括部
製剤技術研究所 研究第一G
多賀洋晃Hiroaki Taga
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第一三共のADC技術は、次世代ADCの開発へと発展し、世界中の患者さんのもとに届けるための研究が日々進められている。
創薬研究で見出された薬の種は、工場で安定的に生産する製造方法や薬剤を投与するための部材の検討など、技術面の様々な研究を経て、世界中の患者さんに届けられる。こうした工業化研究を担うのは、テクノロジー本部の役割だ。
創薬研究、臨床開発、製造、販売など多くの部所が連携している開発プロジェクトにおいて、受け取ったバトンは早く、そして適切につないでいく必要がある。医薬品という形で患者さんに貢献する事を目指して、日々、奮闘するテクノロジー本部の研究者たちに話を聞いた。

合成が難しい次世代ADC

第一三共は、先進的な医薬品を生み出す「サイエンス&テクノロジー」を強みとしている。創薬研究の部門がサイエンスを駆使して生み出したイノベーションを、どう患者さんのもとに届けていくかというテクノロジーを考え、現実にしていくのが製薬技術研究者の仕事だ。

「どの山を登るかは創薬研究の部門が決めます。そのバトンを受け取り、だれが何度登っても確実に安全に登る方法を見つけるのが我々の仕事です。担当している次世代ADCの合成法は、今までとは比較にならないほど工程が多く複雑です。とても難しいプロジェクトで、最初は本当にできるのだろうかという大きなプレッシャーからのスタートでした」と話すのは、同社プロセス技術研究所の小倉友和さん。

入社17年目。大学は理学部化学科を卒業。
大学で研究していた有機合成の知識・経験を活かして、人を助けられる仕事に携わりたいと考え、第一三共に入社した。
現在は、ADC技術の要の1つであるドラッグリンカーを、効率的に高品質な状態で合成する技術を開発するチームのリーダーだ。

ADCは、がん細胞に結合する「抗体」と、がん細胞を攻撃する「薬物」が、「リンカー」と呼ばれる化合物で結びつけられている。薬物とリンカーを合わせたものを「ドラッグリンカー」と呼び、これを「抗体」に結合させることでADCが完成する。
そのドラッグリンカーを合成する過程で不純物が多く生じると、品質を保つためにその後の工程が複雑化し、医薬品の生産効率が低下する。

「できるだけ不純物が生じないような、高い生産効率に繋がるテクノロジーを生み出せるよう、チーム・研究所全体で考えています」(小倉さん)

また小倉さんは創薬研究の部門との連携について次のように語る。
「発見した良い登頂方法を創薬研究の部門に伝えることで、効率的・効果的に新しい山を見つけられることもある。創薬と製薬技術の双方向でサイエンス&テクノロジーを高め合っているのです」

小倉友和さん

スピードも大事

「次世代ADC技術を少しでも早く患者さんに届けたい」と話すのは、同社製剤技術研究所の多賀洋晃さん(入社9年目)。

薬剤師を目指して薬学部に入学したが、医療現場での実習で治療中の患者さんを目の当たりにし、少しでも多くの患者さんを救えるような新薬を作りたいという思いで第一三共に入社した。

1日でも早く、と新薬を待ち望む患者さんのためには、高品質な医薬品を製造することが第一だが、開発スピードを速めることも、きわめて重要だ。生産効率の優れた手法は限られていて、研究分野では常に3人くらい同じことを考えている人がいると言われる。

「実際、我々が登るべき山と似たような山を他社が見つけていて、我々が開発している優れた登り方と他社が開発している優れた登り方が同じになる場合もあるのです。仮に、優れた登り方を開発することができても、先に特許が出されてしまえば、その登り方はできなくなって、一から考え直さなければなりません。我々の手で早く患者さんに届けることが難しくなってしまうのです」(小倉さん)

解決すべき多くの課題と患者さんに早く届けたいという想いの間で、研究者たちは試行錯誤を繰り返す。

「限られた時間の中で、効率よくやらなければと、プレッシャーを感じながら日々、取り組んでいます。でも、大変というより、面白い。大変なのが面白い。それが研究者です」(小倉さん)

多賀洋晃さん

環境にも配慮

医薬品の製造において、安心、安全に患者さんに届けられるようにすることはもちろん、その過程で環境へ配慮することも重要だ。それは、患者さんへの想いともつながる。

「例えば、製造方法上は有用な一方、環境への影響が大きい原材料を使っている製造方法があったとします。その原材料で高品質な医薬品を効率的に製造することができたとしても、その原材料が規制されてしまった場合には、その製造方法自体が使えなくなってしまいます。つまり、その製造方法を使った薬が作れなくなるということです。そうなると、一番困るのは患者さんです。そのようなことにならないように、環境への影響が大きい原材料を回避して、高品質な医薬品を持続的に患者さんにお届けできるようなテクノロジーを開発しています」(小倉さん)

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