第一三共グループでは、組織の目的・目標の達成を阻害する可能性を有し、かつ事前に想定し得る要因をリスクとして特定し、企業活動に潜在するリスクへの適切な対応(保有、低減、回避、移転)を行うとともに、リスクが顕在化した際の人・社会・企業への損失を最小限に留めるべく、リスクマネジメントを推進しています。
リスクマネジメント
リスクマネジメントの推進体制
当社グループは、ヘッド オブ グローバル コンプライアンス・リスクマネジメントがグループ全体のリスクマネジメントを統括しています。その下で各ユニット及び機能長がリスクの抽出、評価、対策等の実施を行い、自律的なリスクマネジメントを推進しております。グローバル コンプライアンス・リスクマネジメントは、グループ全体の運営実務を担うとともに、各ユニット・機能に対して必要な指示、支援、助言を行います。
当社グループの重大リスクは、経営会議・取締役会において決定され、重大リスクごとに指名された各ユニット及び機能長(リスクオーナー)がリスク対応策を実施し、定期的に進捗状況をモニタリングします。各ユニット・機能内で重大リスク顕在化の予兆が確認された際は、速やかにCEO及びヘッド オブ グローバル コンプライアンス・リスクマネジメントに報告される体制としております。
2024年度には、経営陣へのインタビューや業界他社事例の調査を実施の上、リスクマネジメント体制の強化を図りました。その一環として、経営会議におけるリスクに関する議論を補完するために、リスクマネジメントコミッティ(RMC)を新たに設置しました。RMCは常設のコアメンバーと議題に応じたフレックスメンバーにより構成され、リスクに関する集中的な議論が交わされています。また、必要な場合は外部専門家を招聘し、最新の専門知見を得て議論を行うこととしております。
また、リスクオーナーの下、各部門に配置されたリスクコーディネーターが実務的な推進を担う体制を整備しました。さらに外部環境分析(PESTLE分析)を導入し、外部環境の変化をモニタリングし、新たなリスクに対し早期に対応できる体制を整えています。
クライシスマネジメント
当社グループのグローバルクライシスマネジメントポリシーでは、企業活動に潜在するリスクのうち、顕在化し緊急な対応が必要な事象、発生可能性が極めて高くなった事象を総称して「クライシス」と定義しており、その発生による損失の最小化を図ることを目的に、クライシスマネジメントに関わる基本的事項を定めております。基本方針として、「クライシス発生時は、『第一三共グループの社員及び関係者の生命や地域社会の安全を確保する』『生命関連企業の一員としての責任を全うする』ことを基本に、迅速かつ確実にクライシスマネジメントを展開し、人・社会・企業への影響を最小限に止め、事業の継続や早期復旧を図るべく努力する」ことを定めております。
当社グループでは、クライシスの種類(災害・事故、事件<テロを含む>・不祥事・法令違反、情報管理に関する問題、製品に関する問題)やクライシスの影響度合いに応じて、機動的な対応を可能とする体制を構築しております(下図「クライシス発生時の初期対応」参照)。報告基準や報告ルートを明確に定め、クライシスマネジメント責任者(CEO又はCEOが指名した者)、クライシス初期対応責任者(ヘッド オブ グローバル リスクマネジメント)を設置し、グローバルに影響が大きく、全社対応の必要性があるクライシスについては、ヘッド オブ グローバル コンプライアンス・リスクマネジメントとも当該情報を共有し、迅速かつ的確な初期対応により、事態の拡大防止と早期収束に努めて参ります。また、クライシス収束後は、事後分析により、再発の防止や対応の改善を図って参ります。
拡大可能な画像が別ウインドウで開きます
事業継続計画(BCP)
当社グループのBCPは、事業継続へ影響を及ぼす様々な脅威に対処するべくオールハザード型BCPとして整備し、有事においても社会からの要請に応えるために医薬品等の安定供給及び品質確保を可能とする体制、並びに研究開発の継続性を確保できる体制を構築しています。当社グループでは、クライシスの多様化とビジネスのグローバル化に対応するべく、脅威が顕在化した際により適切に対応できるよう継続的な改善を図っています。また、優先して供給する品目については、製薬企業としての社会的責任の大きな製品や、事業継続のために重要な製品等について速やかな供給の実現を目指し、定期的に見直しを行っています。
第一三共新型インフルエンザ対策行動計画
当社グループでは、新型インフルエンザウイルスの世界的な大流行(パンデミック)に備え、従業員及びその家族の安全を確保し、医薬品の供給を継続することを目的とした「新型インフルエンザ等対策行動計画」を策定しております。また、当社は、新型インフルエンザ等対策特別措置法において指定公共機関※に指定されており、国や地方の行政機関が行う対策に協力する責務があります。医薬品の供給継続により、医療体制の維持に貢献することで、社会的責任を果たして参ります。
※指定公共機関(法第2条第6号)
独立行政法人等の公共的機関及び医療、医薬品又は医療機器の製造又は販売、電気等の供給、輸送その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの。
主なリスクとその対応状況
重大リスク(Material risk;全社レベルで管理するリスク)はRMCにおいて議論され、経営会議にて承認されます。
以下は、当社グループのリスクマネジメントにおいて重大なリスク、ユニット・部所レベルの管理リスクの中から抽出した「主なリスク」です。抽出にあたっては、投資判断への影響の有無等を考慮しています。
※Chief Digital Transformation Officerの略
エマージング・リスク
エマージング・リスク(新しいリスクで、自社に対して今後複数年にわたる影響が起こりうる可能性があり、初期的な検討は開始しているが全容は把握できていないもの。)のモニタリングも行っています。RMCや経営会議での議論を反映して特定のエマージング・リスクから重大リスクやユニットレベルのリスクに評価が変更になる場合もあります。エマージング・リスクとして、以下のリスクのモニタリングを行っております。
リスク
AIの利活用に関するリスク
AIとデジタルトランスフォーメーションの適用遅延による競争力の低下
世界的にAI技術の研究開発およびデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進展する中、特に創薬研究や開発プロセスにおいてAI、とりわけ生成AIの利活用が不可欠になりつつあります。これらAIの技術革新への対応が遅れた場合、研究開発における優位性の喪失や競争力の低下を招き、当社グループの経営成績、財政状態等に悪影響を及ぼす可能性があります。
AI関連規制等への対応
AI技術の利用に関する法規制は国際的に強化される傾向にあります。特にEUにおける「EU AI規制法」等の新たな規制への対応が不十分な場合、制裁金や事業活動の制限等が課される可能性があります。また、AIガバナンス体制の不備により患者さんの健康や生命に悪影響を及ぼす事象が発生する可能性があります。さらに、その結果として当社グループの社会的信用の低下や損害賠償支払等により、経営成績、財政状態等に悪影響を及ぼす可能性があります。
対応
これらの様々なリスクシナリオに対して、当社グループはAIによる技術革新を通じた研究開発の加速と全社的なAI利活用に基づくDXの推進を目指した体制の構築を継続しています。また、AI関連規制等の準拠に加えてAIガバナンス体制の構築(グローバルAIガバナンスポリシーの策定、リスク分類に応じたAI開発・運用に関するグローバルガイドラインの整備等)を進めています。