企業の経済活動において、社会的な信頼を獲得し続けることは重要なことです。特に、生命関連産業においては、生命に対する高い倫理観が強く求められています。2016年、研究開発本部では“Ethics and Patient Safety First(倫理と患者さんの安全を科学的興味やビジネスより優先します)”をGlobal RD unit Core Valuesとして掲げ、その理念のもとに研究開発活動を行っています。私たちは、人々の健康と生命の安全に深く関与していることを自覚し、生命倫理に基づく価値観の醸成に取り組んでいます。以下に当社の研究開発活動と、その倫理的対応を紹介します。

ヒト由来試料・情報を用いる研究における倫理的配慮

当社では、より有効性および安全性の高い医薬品をより早く患者さんに届けるため、ヒト由来試料(組織、細胞、血液、遺伝子など)・情報を用いて薬剤の評価を行っています。また、臨床試験における早期の有効性・副作用確認や無益な治療の回避を目的として、臨床検体を用いた最先端のオミックス (Genomics, Proteomics, Metabolomics等) 解析によるバイオマーカー研究を推進しています。新たな研究領域である再生医療・細胞治療においては、iPS細胞、体性幹細胞あるいはヒト由来試料と遺伝子改変技術を組み合わせることによる新たな治療法の開発を試みています。
一方で、これらヒト由来試料・情報を用いた研究は、試料・情報提供者の身体および精神あるいは社会に対して大きな影響を与える場合があり、様々な倫理的、法的または社会的問題を招く可能性があることから、当社では「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」など国の指針に準拠した「ヒト試料・情報等利用研究に関する倫理細則」を制定しています。これらの細則に則って、外部有識者を交えた「ヒト試料・情報等利用研究に関する倫理審査委員会」を設置し、研究の必要性、有用性について客観的に確認し、試料・情報提供者の人権や尊厳を尊重するとともにその背景にある倫理的な課題を十分に議論した上で研究を開始・実施しています。また、事前の自由意思に基づく同意取得はもとより、遺伝情報を含む個人情報の保護について、改正個人情報保護法に対応し、必要な研究課題についてはホームページ上で情報公開しています。以上の研究に携わる従事者には社内の年次教育とともに、一般財団法人 公正研究推進協会(APRIN)の提供する研究倫理教育を義務付けています。

動物実験における倫理的配慮

当社は、「動物の愛護及び管理に関する法律」や「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」などの国の法律・指針に準拠した「動物実験に関する細則」を制定し、重要性を理解したうえで3Rs*1を推進しています。
動物実験を実施するまでには、次項の “3Rsについて”で紹介するin silicoおよびin vitroの評価モデルを用いて標的分子や化合物の評価を行い、動物実験で評価する化合物を絞り込むことで3Rsに取り組んでいます。
動物実験は動物実験委員会で3Rsを含めた科学的妥当性・代替法・実験内容などが審査され、承認された実験計画のみを実施しています。また動物実験従事者には毎年教育訓練を行っています。
当社の動物実験施設は国の法律・指針への適合性について定期的に自己点検を実施するとともに、外部の評価機関による認証を取得しています。葛西研究開発センターはヒューマンサイエンス振興財団内の動物実験実施施設認証センターの認証を、品川研究開発センターはAAALAC International*2(国際実験動物ケア評価認証協会)の完全認証(Full Accreditation)を継続して取得しています。

  • *1Replacement(代替試験法の利用)、Reduction(実験動物数の削減)およびRefinement(苦痛の軽減)
  • *2the Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International の略称

3Rsについて

3Rsについては動物実験を実施する前に動物実験委員会において慎重に審査し、それぞれ以下のような取り組みを行なっています。

1)Replacement
動物を用いない完全置換および系統発生学的に下位の動物に置換する部分置換による代替法がないかを調査し、代替不可能との結論に至った実験のみ動物実験を実施しています。

2)Reduction
実験目的に対して、統計学的手法も適用しながら必要最小限の匹数を決定しています。実験デザインにより予備動物、除外動物が必要な場合も、それが科学的に必要であることが正当化されない限り匹数を追加することは認めていません。

3)Refinement
動物実験で実施する実験手技については、実験目的にかかわらず必要最小限の苦痛である場合のみ実施を認めています。また全ての実験申請において実験のエンドポイントとは別に、人道的エンドポイント*3について検討することを必須としています。

具体的な3Rsへの取り組みとして、動物を用いる評価の前に、コンピューター上でのin silico薬物動態特性予測や、動物もしくはヒト由来の培養細胞等を用いる毒性評価法を導入しています。
また微量採血および定量技術の習得により、小型げっ歯類の毒性試験における薬物動態評価に必要な動物数を大幅に削減し、化合物の体内動態の評価においては、混合投与した複数の化合物を個別に分析する手法を採用し、使用動物数を削減しています。
以上の3Rsの理念および考え方について国内外の動物実験に関する学会や会合に参加して最新の動向を確認し、社会的に許容される最新の動物実験倫理について実験者への教育などの形で社内に導入しています。また実験手技については公益社団法人 日本実験動物協会より指導員資格を認定された講師が技術研修を行なっています。

*3実験動物に過度な苦痛を与えないために設定している実験を中断・中止する基準。

バイオハザードマテリアル・遺伝子組換え生物の取り扱い

当社では、新しいモダリティツールの導入や、再生医療・細胞治療研究、遺伝子治療研究が実施され、これに関連する遺伝子組換え実験やバイオハザードマテリアルの取り扱い管理を適切に行なっています。具体的には、感染症予防法、家畜伝染病予防法など病原体および病原体を含む材料に関わる法令を遵守し、安全に取り扱うため、「バイオセーフティに関する細則」を制定しています。バイオセーフティ委員会は、バイオハザードマテリアルの取り扱いに関する適正な運用ルールを決定しています。また、カルタヘナ法*4に則って遺伝子組換え生物を適正に取り扱うため、「遺伝子組換え実験に関する細則」を制定しています。遺伝子組換え実験安全委員会は、実験がカルタヘナ法に則った計画であるかを事前に確認しています。
これらの研究に携わる従事者には一般財団法人 公正研究推進協会(APRIN)の提供する遺伝子・バイオセーフティに関する教育や年次教育を義務付け、実験事故や法令違反の未然防止に努めています。

*4遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律

遺伝資源の公正な利用

生物多様性の保全、生物多様性の構成要素の持続可能な利用、および遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分について、生物多様性条約等に則って対応しています。

臨床試験における倫理

当社は、臨床試験の実施において、人を対象とする医学研究に関する倫理規範を定めたヘルシンキ宣言、ICH*5-GCP*6および各国の薬事規制等を遵守し、本人の自発的な自由意思のみに基づいた同意(インフォームドコンセント)を厳守しています。
当社が行うすべての臨床試験は、社内で定めた検討プロセスに従い、倫理的な妥当性と科学的な正当性の両面から検討しています。特に、初めてヒトに投与する臨床試験については、医師の資格を有する社員を検討メンバーに含めた臨床試験検討会議において、実施することが適切な医学試験であることを担保しています。さらに、社外の独立した委員会(治験審査委員会/独立倫理委員会)でも、同様の内容(被験者の人権等)が審査され、承認を得た上で臨床試験が実施されます。
また、当社では臨床試験に携わる者に対し、「GCP」と「臨床試験に関する倫理」のトレーニングを徹底しています。
なお、社内の独立した部門が当社の臨床試験の活動に対して監査を実施し、適切な是正・予防措置を推進しています。

  • *5International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Useの略。医薬品規制調和国際会議
  • *6Good Clinical Practiceの略。医薬品の臨床試験の実施の基準

医薬品開発業務受託機関との協働

当社は臨床試験を実施するためのグローバルポリシー「Global Policy of Clinical Trials Standards」を定め、臨床試験に参加するすべての被験者の人権と福祉を最大限に尊重し、臨床試験の科学的に高い質と成績の信頼性ならびに倫理性を確保するとともに、GCPおよび各国の薬事規制等を遵守してすべての臨床試験を計画・実施しています。
当社が実施する臨床試験に関する業務の一部または全てを「医薬品開発業務受託機関(CRO)」に委託した場合でも、当社のグローバルポリシーが適用されます。従って、CRO選定にあたっては、業務を遂行するために必要な事項を事前調査し、評価した上で決定します。CROが業務を実施するにあたっては、当社の方針と基準に沿った業務手順に基づき、必要とされるトレーニングを実施した者による業務遂行を取り決めます。契約後もその業務状況を定期的に確認するとともに、継続的に評価し、責任を持って管理しています。なお、社内の独立した部門がCROへの委託業務を適切に実施しているか監査しています。

臨床試験情報の開示

当社は、当社が実施するすべての第I相~第IV相臨床試験の情報を、各国の規制ならびに各業界団体から示される指針・見解に従って、ClinicalTrials.gov、EU-CTR、JapicCTI等の臨床試験情報公開サイトに登録・公開しています。
これらの臨床試験情報は、当社ウェブサイトの臨床試験情報開示ページ
www.daiichisankyo.co.jp/rd/clinical_trials/index.html)でも開示しています。
これに加え、当社は、臨床試験データ共有プラットフォーム(vivli.org)を用いて、定められたプロセスの下、当社が日欧米で承認を取得した医薬品の臨床試験データにアクセスできる環境を、外部の研究者に提供しています。

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