第一三共では、個々のDX施策を継続的に実行し、グローバルに展開するため、データ・AIの専門機能とガバナンス、共通のデータ・IT基盤、社員による活用を支える環境を整えています。
データ・AI活用を価値創出につなげる体制とガバナンス
Data Intelligence Center of Excellence(DI CoE)
私たちは、データとAIをグローバルに活用するための中核機能として、Data Intelligence Center of Excellence(DI CoE)を設けています。
DI CoEは、データ・AI戦略、データ品質とガバナンス、データ・分析基盤、データサイエンス、統計科学、AI、リアルワールドデータなどの専門機能を連携させ、各事業領域でのデータ活用を支援しています。
製薬バリューチェーン全体にわたって高品質なデータを創出・整備し、それらを安全かつ効果的に活用することで、より高い価値を創造することを目指しています。
データ活用の拡大に対応する専門機能の連携
近年、臨床試験データ、リアルワールドデータ、業務データなど、取り扱うデータの種類や量が急速に増加しています。また、AIなどの技術進展により、データ活用の可能性も大きく広がっています。
一方、データや関連機能が各組織に分散した状態では、グローバルで一貫性のあるデータ戦略、データ品質、ガバナンス、高度な分析・AI活用を十分に推進することが難しくなります。
こうした課題に対応するため、DI CoEでは、データ利活用による価値創出を担う機能と、データ基盤やAIを支える機能を連携させながら、次の取り組みをグローバルに推進しています。
• データ・AI戦略の立案
• データガバナンスとデータ品質の強化
• データ基盤・分析基盤の整備と活用促進
• データサイエンスおよび統計科学の活用
• AIなどの先端技術の実装と業務応用
• リアルワールドデータを含む多様なデータの活用推進
これらの機能を連携させることで、信頼できるデータの整備・活用から、高度な分析・AI活用、事業価値の創出までを一貫して支援しています。
信頼できるデータを支えるガバナンス
第一三共では、データを企業活動と意思決定を支える重要な資産と位置づけ、全社的なデータガバナンスに取り組んでいます。
DX部門は、各部門のData Steward(データの品質・管理を担う担当者)と連携し、データ品質の維持・向上、データ標準化、データカタログの整備、メタデータの管理を行っています。これにより、社員が必要な権限とルールのもとで、信頼できるデータを活用できる環境を整えています。
また、データに対する管理責任を明確にするとともに、品質指標のモニタリングと継続的な改善を通じて、データの正確性、一貫性、透明性の向上を図っています。
データを事業や業務に生かすためには、基盤やルールだけでなく、社員一人ひとりがデータを理解し、適切に活用する力も必要です。そのため、全社員を対象としたデータリテラシー向上施策やコミュニティ活動を通じて、部門を越えて知識や活用事例を共有する文化づくりにも取り組んでいます。
さらに、生成AIを含むデジタル技術を適切に活用するための前提として、信頼性の高いデータ基盤を整備しています。こうした取り組みにより、データに基づく意思決定とAI活用を支えています。
データ分析とAI活用を加速する共通基盤
全社統合データ分析基盤「IDAP」
分散したデータをつなぎ、迅速な分析を可能に
データ利活用の重要性が高まる一方、組織やシステムごとにデータが分散していたため、部門間でのデータ共有、社内システム間のデータ連携、高度な分析環境の提供、利用プロセスの標準化に課題がありました。
こうした課題を解消し、社員がデータの加工・分析・可視化を迅速に行える環境を整えるため、第一三共は2020年に全社統合データ分析基盤「Integrated Data Analytics Platform(IDAP)」を構築し、運用を開始しました。
IDAPは、組織やシステムに分散していたデータの共有・連携を可能にし、さまざまな部門や職種におけるデータに基づく意思決定と、業務の効率・質の向上を支えています。

ガバナンスと処理性能を備えた分析環境
IDAPで取り扱うデータは、グローバルデータガバナンスポリシーに基づいて厳密に管理し、必要な権限とルールのもとで共有・利用しています。
また、大容量のデータを高速に分析できる、処理能力を柔軟に拡張可能なクラウドコンピューティング環境を備えており、現在は世界各地の約2000名がIDAPを活用しています。
高度な分析と社員による自律的な活用を支援
IDAPの活用が広がる中、より高度な解析と、標準化された運用プロセスへの要望が高まってきました。これに対応するため、2024年に IDAPの基盤として外部クラウドプラットフォームを導入し、IDAPの分析環境を拡充しました。
IDAPはIT部門の開発者だけでなく、IT部門以外で自ら分析や業務用ソリューションの開発を行う社員、いわゆる「市民開発者」も利用できます。
利用者が自立的に分析・開発できるよう、経験や役割に応じたトレーニングとコンサルティングを提供しています。また、利用者のニーズを踏まえてクラウドサービスや分析環境を継続的に拡充し、使いやすさと解析性能の両立を図ることで、社員によるデータ分析やソリューションの開発・運用を支援しています。
IDAPが支える高度なデータ活用
IDAPは、大容量のデータを高速に処理できる分析環境を備え、研究開発をはじめとするさまざまな領域でのデータ活用を支えています。
• 大規模言語モデルによるヒト遺伝子データの分析
複雑で膨大な遺伝子情報を高性能Graphics Processing Unit(GPU)で処理し、疾患の原因や新たな治療法の可能性を検討する研究の
迅速化を支えています。
• 数テラバイト規模のリアルワールドデータの高速処理
医療現場から得られる膨大な実データを素早く抽出・加工することで、従来は把握が難しかった適応症の拡大可能性や副作用の兆候を、
より早期に検知・評価できる分析環境を整えています。
AI・デジタル技術を現場の成果につなげる仕組み
画像AIの活用を広げる導入支援と知見共有
第一三共は、画像AIを必要な領域で活用できるよう、社内の活用ニーズの把握、技術の導入・活用支援、知見の共有を一体的に進めています。
探索研究、臨床試験、製造、製造販売後に至るまで、バリューチェーン全体でAIモデルの予備解析や概念実証を実施し、実際の業務で活用しています。また、各領域で得られた知見を社内で共有し、社員の画像AI活用力の向上につなげています。
研究者によるアプリケーション開発
創薬研究技術・手法やデータ形式の変化に迅速に対応し、スマートリサーチラボ*をより効果的に活用できるよう、DX部門と研究部門が協働し、研究者自らがアプリケーションを開発しています。
こうした開発を可能にするため、アプリケーション内製化プラットフォーム、開発環境、ルール、ガバナンスの仕組みや教育機会を提供しています。
*AI、Internet of Things(IoT)、ロボット等を活用して、研究機器の自動化や必要な遠隔業務環境の構築を目指す取り組み
グローバルな協働を支えるコミュニケーション基盤
共通コミュニケーション基盤の整備
グローバルに事業展開する中、地域を越えたコミュニケーションと協働の重要性が高まっています。
私たちは、企業文化「One DS Culture」のもと、世界中の社員が協力し、信頼関係を築きながら連携できる職場環境を整えています。
その一環として、メール、チャット、社内SNS、文書共有など、社員間のコミュニケーションとコラボレーションを支える基盤をグローバルで共通化し、世界中の社員が地域を越えて円滑に情報を共有し、協働できる環境を整えています。
今後は、クラウド基盤など、ほかのIT基盤についてもグローバルでの共通化を進め、グループ全体の連携をさらに強化していきます。
AI翻訳で広がるグローバルな協働
グローバルな事業活動と社員間の協働を支えるため、従業員が高精度なAI翻訳を利用できる環境を整えています。
2020年からAI翻訳プラットフォームを導入し、さまざまな業務で活用しています。2025年4月には、テキストやファイルを迅速かつ正確に翻訳する「DeepL Pro」、2026年5月にはオンライン会議の発言をリアルタイムで翻訳する「DeepL Voice」の運用を開始しました。
これらの環境により、テキスト、ファイル、オンライン会議など、場面に応じて翻訳を利用でき、言語の壁を越えたコミュニケーションと意思決定を円滑にし、盛会各地の多様な専門性を結集したOne DSとしての協働を支えています。
データで経営と業務を変革するIT基盤
資源計画システム刷新によるデータ駆動型経営
第一三共は、グローバルに分散する経営・業務データを標準化・可視化し、より迅速で的確な経営判断につなげるため、プロジェクト4D(Daiichi Sankyo Data-Driven Decision Making)を推進しています。これは、基幹システムの刷新にとどまらず、データを共通言語として経営と業務の在り方を変革する取り組みです。
Project 4DによるグローバルERPへの統合
Project 4Dでは、Enterprise Resources Planning(ERP、統合業務管理システム)の刷新を通じて、地域ごとに分散していたERPシステムを、単一のグローバルERPプラットフォームに統合します。
これにより、グローバルなビジネスプロセスから得られるデータを標準化し、経営情報を一元的に把握できる環境の構築を目指しています。
この新たなグローバル業務基盤から、経営ダッシュボードへデータを連携し、世界中の拠点から集まる経営データを迅速に可視化することで、全社の意思決定を支えています。
段階的なグローバル展開
Project 4Dでは、グローバルERPの段階的な導入を進めています。
• 2024年4月: グローバルの財務データを一元的に収集するCentral Finance(CFIN)が稼働
• 2025年10月: 欧州の対象国にグローバルERPを導入
• 2026年4月: 米国にグローバルERPを導入
• 2027年度中:日本での稼働開始を予定
期待される効果
ERPの刷新が完了した後には、以下のような効果が期待されます。
• 組織の意思決定の迅速化
• 予算管理や実績モニタリングの高度化
• 製品の需給調整の効率化
• 調達プロセスの最適化
これらを通じて、データに基づく意思決定を、より迅速かつ的確に行える体制の整備を目指しています。
業務プロセスの可視化と継続的な改善
第一三共は、個々の業務にツールを導入して効率化するだけでなく、業務プロセス全体を把握し、継続的に見直すことで、業務そのものを変革することを重視しています。
業務の流れや各工程のつながりを可視化することで、個別の業務だけでは見えにくい課題や改善機会を把握し、プロセス全体の最適化につなげることができます。
このため、グローバルで共通して利用できるビジネスプロセス管理システムやプロセスマイニングツールを導入するとともに、トレーニングコンテンツとガイドラインを整備しています。これらを利用して業務の流れを可視化し、継続的な改善と業務プロセスの変革を支えています。
業務プロセスの可視化と見直しは、自動化に適した業務や工程を特定し、取り組みの優先順位を明確にするうえでも重要です。既存の業務をそのまま自動化するのではなく、業務の目的とプロセス全体を改善したうえで自動化を進めることで、生産性向上にとどまらない、持続的な業務変革につなげています。