現場のDX人材がDX推進を加速する

第一三共グループのミッションは、革新的医薬品を継続的に創出し、多様な医療ニーズに応える医薬品を提供することです。激変の時代にミッションを達成するためには、膨大なデータと新たなデジタル技術を駆使して、世界に新たな価値を生み出すデジタルトランスフォーメーション(DX)が不可欠です。
第5期中期経営計画には「DX推進によるデータ駆動型経営の実現と先進デジタル技術による全社変革」が戦略を支える基盤の一つとして定められ、2030 DXビジョン「先進的グローバルヘルスケアカンパニーとして、データとデジタル技術を駆使してヘルスケア変革に貢献する」を掲げてDXの活動を推進しています。

アンメットメディカルニーズへの対応など社会からの要請に応えるために注力する「全社DXを推進する風土醸成と人材育成」の内容や具体的な状況、今後の展望を解説します。

全社一丸となってDX推進するためのDX人材育成の必要性

 

第一三共グループが全社でのDX推進に力を入れるのは、創薬や臨床開発、サプライチェーン、販売・情報提供活動や信頼性・品質保証・安全管理に至るまで、医薬品提供のバリューチェーンをより強固にし、高い価値の創造につなげるためです。

製薬会社におけるDXと聞くと、膨大なデータ解析による創薬プロセスの効率化、AI活用による医薬品研究の加速化や製造の効率化といったことが思い浮かべられるかもしれません。しかしこれに限らず、医薬品を提供するための全てのプロセスにおいて、各組織がこれまでの常識にとらわれずDX推進に挑み、その結果として業務効率化や生み出されたリソースを新たな価値創出に向けて転化することがより重要です。

DXはデジタル化が目的ではなくトランスフォーメーション=変革することが重要です。すなわち、時代や環境変化に対応できるように「デジタルを使って自分たちを変えよう」という考え方です。したがって、DXを推進するには、各組織で従来から求められてきた業務上に必要な知識や経験である「ビジネススキル」と、デジタルリテラシーやデータ分析スキルといった「DXスキル」を併せ持つ人材の育成が欠かせません。

第一三共が定義するDX人材とは 

 LV コアビジネススキル  DX推進スキル  デジタルスキル  データ分析スキル 
   Businessスキル  Techスキル
   ビジネスゴールを実現するため/変革を実践するために必要なビジネススキル 効果的・効率的なDXを実現するために必要な推進方法を実践するためのスキル   デジタル技術を活用したビジネスの変革を企画・立案・推進するために必要なスキル データを活用したビジネスの変革を企画・立案・推進するために必要なスキル 
 5  社内の第一人者、他者を指導できる
 4  自ら企画し、業務に適用できる
 3  上位者からの指示のもと、業務に適用できる
 2  使える 読み取れる
 1  知っている


第一三共では、デジタルやITの知識が深いことに加えて、各組織のビジネスに必要な経験とスキルを兼ね備えた状態をDX人材と定義しています。つまり自分たちが取り組むビジネス、提供する価値を理解したうえで、デジタル技術を使ってどのように改善できるか現場で考えて実践できる人材を育成したいという方針です。

DXに必要なスキルは、BusinessスキルとテクノロジーにひもづくTechスキルの2つに大別しています。
Businessスキルは各バリューチェーンにおけるコアビジネススキルと、DXを推進するための実践スキルから構成され、Techスキルはデジタルスキルとデータ分析スキルから構成されます。デジタルスキルとは、ビジネスの変革のためにクラウドシステムやAI等の様々なデジタル技術を活用するための能力です。データ分析スキルでは、データドリブンなアプローチへの理解や実践に加えて、BI/AIツールなどを用いて統計学の基礎を踏まえてデータ分析を行うことなどが求められます。より高度なレベルでは、機械学習やディープラーニングといったデータサイエンスの知識やスキルを用いて、データ分析プロジェクトの中心的な役割を担います。

このスキルマップが定義されたのはDX推進組織が発足してから間もない時期です。当初から特定の部署だけではなく、全社が一丸となってDX推進を行うことが目標に掲げられました。各組織のマネジメント層への説明を重ね、DX推進スキルやTechスキルが職種に左右されない汎用的な指標であることの理解を得ました。

第一三共のDX人材育成計画の全体像

FY22 DXマインド醸成・基礎スキル強化
FY23 データ分析スキル強化
 FY24 DX推進リーダー育成
 ITパスポート受験 約2,700名/FY22-23
データサイエンティスト検定受験 約700名/FY23
手上げ式オンライン学習プログラム参加 約1,300名/FY22-23
各組織のDX人材育成計画策定完了
 DX推進リーダー育成のための強化プログラム推進予定
モチベーション向上・マインド変革施策としてオープンバッジ制度の導入を予定


FY25自律的DX推進体制

 

グループ全社のデジタル変革推進を担うのがグローバルDXです。人事部と協働し、2025年までの人材育成計画を策定して、DXにかかわる資格取得の支援や全社的な研修への参加を促しています。

2022年8月から、ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験である「ITパスポート」の資格取得を目指す社員に向けて社内でeラーニングを提供したほか、受験にかかる費用も全額補助しました。初年度であった2022年度は、当初応募枠の200名を大きく上回り、約10倍の2,043名が挑戦しました。グローバルDXの担当者は「DXによって社員自身のキャリアパスの見直しを行うだけでなく、自らがDX人材へと進化することで組織や第一三共のビジネスに貢献したいという想いを持っている社員が多い」と話します。

さらに、手上げ式のDXスキル研修も569名が受講しました。DX人材育成計画は、2025年度までのロードマップが定められており、2023年度は「データ分析スキル強化期間」として、データサイエンスに関する取得支援も始めました。

2024年度には全組織でのDX推進リーダーの育成とともに、2025年度には自律的なDXを展開し、推進できる人材の育成が完了することを目指して、社内研修の充実も図ります。

DX人材育成の現在地とこれから

人材育成施策に加え、メタバースの業務活用に向けて、社員自らが体験を通じて利活用場面のアイデアを創出するアイディエションワークショップのほか、VR技術を活用した英会話トレーニングのPoCなども行っています。こうした機会を通じて、デジタル技術への興味・関心を促し、変革マインドを醸成するといった取り組みも進めています。

2023年10月2日、2024年度に入社する新卒社員など約100名が集まって内定式が行われたのは、メタバース空間でした。これは第一三共としては初めての試みとなります。メタバース内定式は、新たな技術の体験を通じて「自身の組織や業務ならどのような応用の可能性があるか」ということを、多くの社員が考える機会を創出したいという思いのもと実行に至りました。

会社全体のビジネス環境変化やDX機運の高まり、人材育成支援制度2年目もITパスポートの受験者が700名を超えるなど、社内でも「DX人材を目指そう」という意識が着実に広がっています。2023年度は、より難易度が高い「データサイエンティスト検定」も新たに資格取得支援の対象となり、700名近くの応募がありました。

DXスキルの向上に対する社員のモチベーションを高める目的から、2024年度には新たに「オープンバッジ」が導入します。オープンバッジとは、スキルや資格のデジタル証明書として発行されるもので、バッジ取得者はDXスキルを有する人材としての社内外から信頼を得やすくなるでしょう。

2025年、全ての組織において自律的なDX推進が可能な体制を整備する

第一三共では多くの社員が現在進行形でスキル習得を通じた「自身のトランスフォーメーション」に取り組んでいます。また、すべての組織においてDX人材育成の取り組みをすすめており、DXの第1期ともいえる2025年度までには、全組織で自律的にDXを推進できる要員体制の整備を行う計画です。

DX人材の増加は途中経過に過ぎません。スキルアップした人材によって次々にDXが実行されることが最終的なゴールです。第一三共では、グループのパーパス(存在意義)である「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」ために、今後も各現場でのDX推進を加速させます。

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