健考カルテ 糖尿病に伴う神経の障害による痛み 足の異常を見逃さない

鹿児島大学病院 総合臨床研修センター
副センター長 特例准教授、医学博士
出口 尚寿(でぐち・たかひさ)先生

[プロフィール]
鹿児島大学医学部卒業。
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医・指導医、日本神経学会専門医・指導医。

糖尿病で足に痛みが出る場合があることをご存じですか? 糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、夜間に症状が出ることも多く、睡眠障害にもつながり、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。鹿児島大学病院総合臨床研修センター副センター長の出口尚寿先生は「糖尿病で両足先や両足裏に痛みやしびれを自覚する場合、糖尿病性末梢神経障害性疼痛の可能性があります。糖尿病は足にトラブルが起こりやすいということを知って、日ごろから足に注意を払うことが大切です」とアドバイスします。

血流が悪くなって末梢神経の機能が低下する

Q糖尿病性末梢神経障害とは、どんな病気ですか?

A糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、末梢神経に栄養を運ぶ血管の壁が厚くなり、血流が悪くなって、末梢神経線維の機能が低下してしまいます。それによって痛みやしびれなど、さまざまな症状が起きてくる合併症の一つが、糖尿病性神経障害です。
末梢神経系には、痛みなどを感じる感覚神経、筋肉を動かす運動神経、心臓や胃腸の働きを整えたり、血圧や体温をコントロールする自律神経の3つがあり、糖尿病性神経障害では、これらの神経が障害されます。
糖尿病の治療がしっかりできている人には合併症は起こることは少ないですが、高血糖が持続すると、リスクが高くなります。また、まだ糖尿病を発症していなくても、肥満、脂質異常、高血圧などメタボリックシンドロームのある人は、軽い神経障害を起こしている場合があります。

足先のしびれ、痛み

Q代表的な症状は?

A足の裏や足先の痛みやしびれ、感覚異常がほぼ左右対称に現れます。痛みの種類は、けがや炎症のときとは異なり、ジンジン、ピリピリ、チクチクする、針で刺されるような感じ、電気が走るような感じ、などと表現されます。また、靴下を履いていないのに履いているような感覚があったり、紙一枚をはさんで靴を履いているような気がするなどの違和感が出てくる場合もあります。
日中はあまり気にならなくても、夜寝床に入ってから自覚することが多いため、睡眠障害につながりやすくなります。
これらの症状は比較的早い段階で現れるといわれていますので、自覚症状がある人は早めに主治医に相談してください。

足が痺れている人のイラスト

時間をかけて痛みを軽くする

Q神経障害による痛みには、どのような治療法がありますか?

A傷んだ神経から発生する刺激が神経終末まで伝わると、興奮性の神経伝達物質が過剰に放出され、脳まで伝えられて〝痛み〟として認識されるのが神経障害性疼痛です。このため、神経伝達物質の活発な放出を抑制する薬(神経障害性疼痛治療薬)を使って痛みを軽減させます。
糖尿病性神経障害による痛みには、頭痛やケガなどに使う非ステロイド性抗炎症薬(いわゆる痛み止め)が効かない可能性が高いです。
また、本来人間には痛みを抑制する神経がありますが、その神経の働きを強くする薬として抗うつ薬が神経障害性疼痛治療に使われる場合もあります。
これらの薬は、最初は少ない用量でスタートして、眠気などの副作用に慣れていくにしたがって、週単位で徐々に量を増やしていくことが重要です。
痛みの治療と並行して、糖尿病の血糖のコントロールを改善させるため、薬物療法だけでなく、食事療法、運動療法もしっかり行っていく必要があります。

さする、なでる、温めることで軽減

Q痛みなどを和らげるために、自分でできることはありますか?

A神経障害性疼痛の場合、症状のあるところを、さする、なでる、温める、など別の刺激を与えることで和らぐこともあります。湿布をはったり、軟膏を塗ると、紛れるという場合もあります。ただ、これらの対処法は、症状を少し軽減する程度で、根本的な解決法ではありません。
アルコールを飲むと痛みやしびれが少し紛れるからと、量が増えてしまう人もいますが、かえって症状を悪化させてしまうので、基本的には禁酒をお勧めします。同様にタバコで気を紛らわす人もいますが、血流の悪化につながり、症状を悪化させてしまうので禁煙をお勧めします。
一方、運動はどんなものでもプラスになります。ウオーキングでも足首を回すだけでも、足を動かすことで血行がよくなり、症状が楽になる可能性があります。感覚神経障害と同時に、運動神経障害で両足の筋肉が萎縮してくる人も多いので、特に足の筋力トレーニングをお勧めします。

ドクターからの
アドバイス

糖尿病という病気は、足にトラブルが起こりやすいということを、まず知っていただきたいと思います。
その上で、日ごろから足に症状がないかどうか、清潔かどうか、注意を払うようにしてください。入浴して足を洗うとき、足の爪を切るときなどは、足を観察するチャンスです。
運動神経の障害によって足の筋肉が萎縮してくると足が変形してきます。足の指の変形や、土踏まずのアーチができたり、逆に扁平足になったりするので、よく観察してください。
神経障害が進行すると、今度は感覚が鈍って、けがをしても気づかないようになります。傷口に細菌感染を起こすと潰瘍になったり、壊疽を起こしたりするリスクにつながります。最終的には足を切断しなければならない場合もあります。
糖尿病があって左右両足の裏や足先に痛みやしびれがある場合、糖尿病性末梢神経障害性疼痛である可能性が高いです。まさかそれが糖尿病と関係があるとは認識していない患者さんは、まだまだ多いと思います。
糖尿病に気づいていない人も多いですが、過去に糖尿病と診断されたのに、治療を中断してしまった人は、特にリスクが高いので要注意です。
糖尿病の外来は、患者さんの数も多く、なかなか足まで診察する時間がないことも多いものです。足の痛みやしびれなど、気になる症状がある場合は、「糖尿病とは関係ないだろう」と自己判断せずに、必ず主治医に伝えるようにしてください。
しびれ、痛みは早期に見られる症状です。早い段階で見つかれば、糖尿病の治療を強化することで、痛みの治療がスムーズにいく可能性が高まります。
足の異常を見逃さず、それが糖尿病から起こっているのだということをまず知って、早めに主治医に相談するようにしてください。

企画・制作=読売新聞社ビジネス局
2023年11月11日掲載

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