健考カルテ -乳がん最新情報-自分らしい選択をするために

名古屋大学大学院 医学系研究科
乳腺・内分泌外科学 教授
増田 慎三(ますだ のりかず)先生

[プロフィール]
1993年大阪大学医学部卒業。2001年大阪大学大学院医学系研究科卒業・医学博士。市立堺病院、国立病院機構大阪医療センターで、乳腺診療とその臨床研究に専従。2021年10月から現職。

乳がんは女性がかかるがんの中で最も多く、いまや成人の9人に1人、とても身近な存在になってきました。名古屋大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学教授の増田慎三先生は「適切な診断、治療を受ければ、乳がんの9割以上※1は完治します。怖がらず、早期発見につながるよう乳がん検診と自己検診を欠かさないようにしてください」と呼びかけます。

※1 国立がん研究センター「全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について5年生存率、10年生存率データ更新」

女性がかかるがんの第1位

Q乳がんにかかる人は増えていますか?

A乳がんは女性のがんの中で最も多く、国立がん研究センターがん情報サービスのがん罹患数予測(2021年)によると、この1年でおよそ9万5千人が新たに乳がんの診断を受けるとみられています。成人女性の9人に1人という割合は、いつ誰がかかってもおかしくない状況です。
年齢別では30代後半から増えはじめ、ピークは40~50代、60代以降も極端に減ることはなく、90代で発症する場合もあります。

自己検診と乳がん検診の両方が必須

Q早期発見のために必要なことは?

A2004年に各自治体が行うマンモグラフィ検診が始まってから、0~1期の早期で見つかる人が増えています。40歳以上の人は2年に1回の乳がん検診を欠かさず受けるようにしましょう。
ただし、検診だけで100%乳がんが見つかるわけではありません。ふだんから毎月1回は自分の乳房をきちんと見て触る自己検診を習慣にしてください。しこりや引きつれ、左右の違い、乳首から血液が混ざった分泌液がないかどうかをチェックします。定期的に行うことでわずかな変化にも気づくようになります。
入浴時に立った状態で触る、もしくは入浴時以外では仰向けに寝た状態でチェックすると、よりわかりやすいのでおすすめです。
家族に乳がんにかかった人がいる場合などは、2年に1回を待たずに人間ドックなども活用して年に1回は検診を受けたほうがいいでしょう。

リスクの高い人には予防切除も

Q乳がんを予防する方法はありますか?

A喫煙、アルコールの飲みすぎ、過度なストレスを避け、健康的な生活を送ることが基本ですが、決定的な予防法はありません。
ただ、乳がんの約4%※2は、BRCAという遺伝子の異常をもったHBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)であることがわかっています。2020年4月からこの遺伝子異常を調べる血液検査と、乳がんを発症した場合、まだがんにかかっていないもう片方の乳房を、予防的に切除する手術が保険適用になりました。受けるかどうかは本人の選択になりますので、主治医とよく相談して決めましょう。

※2 日本乳癌学会 将来検討委員会 HBOC診療ワーキンググループ 規約委員会「遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き」

がんのタイプや場所により適切な治療を

Q早期発見なら乳房温存手術だけで完治しますか?

A早期発見であれば乳房を温存できる可能性は高くなりますが、がんのタイプや場所によっても異なります。
乳がんは、がんが乳管内にとどまっている非浸潤がん、乳管の外に広がっている浸潤がんの二つに大きく分けられます。
非浸潤がんは、乳がん全体の1割程度で手術だけで治療が完結します。この段階ではステージ0ですが、乳管の中をがんが広がりやすいため、範囲が大きければ、きちんと確実に切除するために全乳房の摘出が必要な場合があります。また、温存しても乳房がきれいな形で残せない場合、全乳房の摘出を選択する人もいます。
全乳房を摘出した場合、人工のシリコン製バッグや下腹部の脂肪などの自家組織を使った乳房再建術にも健康保険が適用できますので、選択可能です。
一方、浸潤がんの場合、1~2センチの小さなしこりでも、全身に目に見えないがんが広がっている可能性があります。乳房温存手術の場合は残った乳房からがんが発生するのを防ぐために放射線治療を行います。さらにがんのタイプによって、化学療法やホルモン療法などの薬物療法を行います。完治を目指すには、この薬物療法を正しく選択し、一定期間受けることが非常に重要です。

ドクターからの
アドバイス

「適切な診断、治療を受ければ、乳がんの9割以上は完治します。治療薬の開発も進み、再発してもがんと共存できる可能性が高くなってきました。主治医を慎重に選び、信頼関係を築いていくことが大切です」

乳がんと診断されると「一刻も早く治療しなければ」と誰もが焦ります。しかし、乳がんは最初の治療が終わったあとも、10年を超える経過観察が必要です。あわてずに、長くおつきあいできる病院や医師を選ぶことが重要です。
乳がんの治療は、それぞれのがんのタイプやリスクに応じた個別化が進んでいます。自分の乳房に対する思いも、人によって異なります。主治医は皆さんの希望を会話の中からくみ取りますが、患者さんも、希望は100%伝えてほしいと思います。その希望に沿えるかどうかは医療者とじっくり相談しましょう。忘れてはならないのが、がんを完全に治す機会を最優先にすることです。
かつては再発すると有効な治療法がありませんでしたが、薬物療法として再発後に有効な新薬も出てきて、がんの勢いを抑え込みながら、うまく共存していける時代になってきました。
心と体の両方が健康でいられるよう、自分のやりたいことはあきらめずに、適度な休息と心のゆとりをもって、楽しく毎日を過ごしていただけたらと思います。

企画・制作=読売新聞社広告局
2021年10月17日掲載

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