乳がんを知る 自分らしく生きるために

昭和大学医学部外科学講座乳腺外科部門教授
昭和大学病院ブレストセンター長
中村 清吾(なかむら せいご)先生

[プロフィール]
東京都生まれ。1982年に千葉大学医学部卒業後、聖路加国際病院、米MDアンダーソン癌センターで研修。2003年に聖路加国際病院外科医長、2005年に同乳腺外科部長などを経て、2010年に昭和大学医学部乳腺外科教授、同大学病院ブレストセンター長就任。アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)会員、NPO法人日本乳がん情報ネットワーク代表理事などを務める。著書に『乳がん 正しい治療がわかる本』(法研)など。

日本人女性のがんとしては、最多となっている乳がん。ライフスタイルの変化や欧米型の食生活などを背景に、患者数は増加している。乳がんは早期発見が可能で、治療法も日々進歩し、生活の質(QOL)を維持していくための意識も大きく変化している。昭和大学医学部乳腺外科の中村清吾教授に、乳がんを取り巻く現状について聞いた。

乳がんという病気について

 ――乳がんはどのように発生するのでしょうか

乳房は、母乳を作る乳腺組織と、それを包む脂肪組織からできています。乳腺組織は、母乳を作る小葉と母乳を運ぶ乳管からできています。乳がんは乳腺の組織にできるがんで、約8割は乳管から発生します。がん細胞が乳管の中にとどまっている間は非浸潤がん。乳管の外にしみ出るように広がると浸潤がんと呼び、血液やリンパ管に入り込み、転移のリスクが出てきます。

 ――なぜ患者数が増加しているのでしょうか

ライフスタイルの変化や欧米型の食生活、女性の社会進出なども挙げられます。約8割の乳がんの成長に関与しているのは女性ホルモンのエストロゲンで、その分泌されている期間が長いほど乳がんを発症するリスクは高まります。すなわち、月経がある期間が長い方が乳がんになりやすいのですが、近年は初潮年齢が早く、閉経年齢が遅くなっています。また、出産回数が少ないと、高いエストロゲンにさらされる期間が長くなります。乳がん年齢の発症ピークは40代後半とされていましたが、現在は50代後半にもう一つのピークがあります。

進歩していく検診治療

 ――どのような検診がありますか

視・触診やマンモグラフィが中心です。しかし、日本人女性の場合、高濃度乳房といって、乳腺の発達によって小さな影を見落としてしまう可能性が課題とされています。若い世代をはじめ、しこりや分泌液など気になる点がある方に対しては、超音波(エコー)検査が有効になってきます。

 ――手術療法も大きく変化しました

以前は乳房と一緒に胸の筋肉や腋窩リンパ節を切除する手術が主流でしたが、乳房を失う悲しみや切除後のリンパ浮腫など、患者さんにとってはつらいものでした。近年は部分的に切除して乳房を残す乳房温存療法や切除後の乳房再建手術が普及してきています。治療の基本方針を示すガイドラインに沿って、がんの特徴に合った多様な治療が選択できるようになってきています。

 ――薬物療法も進化しました

乳がんに対する薬物療法には、主に、殺細胞性抗悪性腫瘍薬によりがん細胞の増殖を抑える化学療法、乳がん細胞にエストロゲンを与えないようにする内分泌療法、がん細胞の増殖に関わっている特定の物質(分子)に作用する分子標的療法があり、患者さんの乳がんのタイプにより治療法を選択します。薬物療法による副作用には個人差がありますので、医師との相談が大切です。今後、副作用を予防するための臨床試験や、副作用が少ない薬剤の開発が進んでいくことを期待しております。

 ――予防する治療にも注目が集まります

著名な米国の俳優が2013年、遺伝性乳がん検査の陽性結果を受け、発症予防のための手術をしました。日本でも、乳房片側にがんが見つかり、予後不良とされるタイプの患者さんは遺伝子検査を受け、陽性の場合は反対側も切除することがあり、妊娠出産の時期を考慮しながら治療を考えます。

自分らしい生活を続けるために

 ――チーム医療を追求しています

患者さんが自分らしい生活を続けるために、医師や看護師、薬剤師など、多様なスタッフが関わることで、治療効果だけではなく、退院後の食事や痛み、仕事、生活の心配など、応援できることが増えていくはずです。

 ――乳がんに携わる医師として心がけていることは

聖路加国際病院時代に恩師から授かった「まず患者さんのおっしゃっていることをよく聞きなさい」という言葉の重さを実感しています。医療の進歩とともに、患者さんのすべてをみつめる "全人的治療" を実践できる医師やチームを育てていきたいと考えています。

企画・制作=産経新聞社メディア営業局
2020年12月12日掲載

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