-働く人とそのご家族のための健康講座- 急性骨髄性白血病

血液細胞のがんである白血病。子どもから大人まで幅広い年齢層の人が発症する可能性のある病気です。白血病は他のがん同様、高齢化により患者数が増えています。白血病の原因や症状、検査や診断法、抗がん剤や造血幹細胞移植による治療などについて、名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学の清井仁先生に伺いました。

近年増加する血液のがん

急性骨髄性白血病 知っておきたい3つのポイント 1.加齢とともに増える患者数 2.診断の確定には骨髄検査が必要 3.治療・療養には家族と周囲の理解と支えも大切

講師
清井 仁 先生
名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学

point1 異常な白血病細胞が際限なく増える

――白血病とはどういう病気でしょうか。
血液の主成分は赤血球、白血球、血小板の3種類の血液細胞です。これらは必要に応じて、骨髄中の造血幹細胞から分化し、増殖して生み出されます。例えば、貧血なら赤血球が、感染症に罹患(りかん)すれば白血球の産生が促されるわけです。この分化と増殖による産生コントロールがうまくいかなくなる病気が白血病です。

――白血病には急性と慢性があると聞いています。
造血幹細胞からの分化と増殖の両方が制御できなくなるのが「急性」、増殖のみが制御できなくなるのが「慢性」です。急性の場合、分化する前の未熟な血液細胞ががん化した「白血病細胞」が無制限に増え、正常な細胞の産生を阻害します。結果、赤血球が減ってしまえば貧血になり、あるいは血小板が減ってしまえば出血しやすくなるといった症状が出るのです。
一方、慢性白血病の場合、異常な白血球は増殖しますが分化能は保たれていることから、成熟した血液細胞を産生することができます。このため病気の初期にはあまり症状が出てきません。ただし進行によって急性へ転化すると、急性白血病と同様の症状が表れます。
また白血病は、がん化したおおもとの細胞の違いによって「骨髄性」と「リンパ性」にも分けられます。

血液細胞の種類と成り立ち

血液細胞の種類と成り立ち

国立がん研究センターがん情報サービスの図表をもとに作成

――白血病を発症する患者は年間どのくらいいるのでしょうか。また、発症しやすい年齢などはあるのでしょうか。
日本全国で1年間に約1万4000人が白血病と診断されています(※)。白血病の発生率は近年、増加傾向にありますが、これは高齢化の影響だと考えられます。白血病の罹患は、小児で小さなピークがありますが、その後は年を重ねるほど発症頻度が増加します。高齢になるほど遺伝子変異が多く積み重ねられることも1つの要因でしょう。これは他のがんと同様です。

――テレビドラマなどの影響でしょうか。白血病は若い人の病気というイメージが強いのですが……。
白血病は小児のピークを除けば、高齢者ほど頻度が高く、若い人に多い病気というわけではありません。ただし、他のがんと比較してAYA(思春期・若年成人)世代でも罹患する人が多いため、そうした印象をもつのではないでしょうか。

point2 わかりにくい初期症状 専門医の検査が必要

――急性骨髄性白血病に絞って伺います。発症後、どういった症状が出るのでしょうか。
風邪のような症状を訴える患者さんが多く、当初は気づきにくいですね。抵抗力の低下によって感染症にかかり発熱したり、貧血によって身体がだるくなったりします。動悸や息切れ、ぶつけてもいないのに青あざができたり、歯茎からの出血があったりもします。どういう症状が出るかは、血液のバランスの崩れ方によるので、人によって多少異なります。こうした症状がなかなか治らず、血液検査を受け、血液細胞の数に異常が見つかり、白血病の疑いが持たれる方が多いです。ただし、血液細胞の数が異常値を示す病気は白血病に限りません。診断には、骨髄検査など、専門医による精密な検査を行う必要があります。

――急性骨髄性白血病の治療について教えてください。
急性骨髄性白血病の診断後、最初に行うのが抗がん剤治療です。これによって白血病細胞を減らし、正常な造血を促すことで、見かけ上は症状のない状態を目指します。この状態が寛解です。発症当初、約1兆個あるといわれる白血病細胞は、寛解となっても依然何億個も残っています。そこで作用機序の異なる抗がん剤や分子標的薬を順に使い、残っている白血病細胞を徐々に減らします。最終的には血液細胞中の白血病細胞の割合を10万分の1以下にまで減らすのが目標です。

――その次の治療はありますか。
抗がん剤治療がよく効くタイプであれば、そこで治療は終了です。しかし、そうした患者さんは全体の2割ほどです。抗がん剤治療で充分な効果が期待できないタイプで、年齢がおおむね70歳以下の患者さんの場合、造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植)を考えます。移植には幹細胞を提供してくれるドナーが必要です。また、ドナーと患者さんは白血球の型であるHLAが一致しなければなりません。もっとも最近は、ハプロ移植といって、HLAが半分だけあっていれば移植が成り立つ技術が確立されています。親子であれば半分は必ず一致するため、ドナーの問題は改善されてきています。

――白血病に罹患した場合、家族や周囲の人が気をつけたいことはありますか。
白血病によって免疫力が低下すると、健康な人では問題にならないような弱い病原菌にも感染し、重篤な状態になることがあります。そのため生活環境を清潔に保つ必要があります。また、白血病の治療は長く続く場合があります。治療の継続には家族や周囲の人の理解と精神的な支えがとても重要です。

※国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」より
 https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html

企画・制作=日本経済新聞社Nブランドスタジオ
2024年02月24日掲載

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