-働く人とそのご家族のための健康講座- 高血圧

高血圧症と診断される人は日本人全体で4300万人以上に上るといわれており、血圧リスクについて啓発が進んでいる中でも増加傾向にあります。ほとんど自覚症状もないため、放置されやすいことが原因の一つですが、深刻な病気につながることも多いため、早めの対処が必要です。東北大学の田中哲洋先生は、コロナ禍により高血圧症患者が一層の危機にさらされるのではと心配しています。

コロナ禍でリスク高まる

高血圧 知っておきたい3ヵ条 自宅で定期的に血圧測定を 自覚症状はほとんどないが放置は危険 まず生活習慣改善、そして薬物治療

講師
田中 哲洋 先生
東北大学大学院医学系研究科
腎・膠原病・内分泌内科学分野 教授

point1  忍び寄るサイレントキラー

 ――高血圧とはどんな状態ですか。
心臓はポンプとして血液を全身に送り出しますが、その際、血管に伝わる圧力が血圧です。心臓が最大限収縮して圧力が高くなったときの血圧を最高血圧、そして逆に拡張したときの血圧を最低血圧として測定し、一定値を超えると高血圧と診断されます。その基準は病院などで測定したときは140/90mmHg以上、自宅などで測定したときは135/85mmHg以上とされています。
病院などで測定するとどうしても緊張するため高めになることが多く、「白衣高血圧」といわれます。実際の血圧はその時々の活動状況に応じて20〜30mmHgの変動があり、普段の落ち着いているときの血圧がどうか、日々の変動はどうかを把握することも重要です。
そのため家庭で市販の血圧計を利用しリラックスした状態で測っていただくとよいでしょう。基本は朝と夜それぞれ2回ずつ、椅子に座って2、3分じっとして落ち着いてから測定します。さらに毎日記録をつけていただけるとご自身でも血圧の傾向が把握できますし、医療従事者に提出していただければ、予防や治療の目安にすることもできます。

 ――高血圧はなぜ体に悪いのですか。
高血圧になっても頭痛や肩こりを訴える人が若干いる程度で、ほとんどの方には自覚症状はありません。しかし、血管に負担をかけ続けると血管の壁はもろく、傷つきやすくなります。血管が傷ついた箇所には血栓などの塊ができやすくなり、塊で心臓の血管が詰まると心筋梗塞、塊が剝がれ血流にのって脳の血管に詰まると脳梗塞となります。また、高血圧が原因で血管が固くなり動脈硬化が引き起こされると、心臓の血管が狭くなる狭心症の原因になります。
また、高血圧状態が続くと血管は硬くなります。弾力を失った血管に血液が勢いよく流れると、脳の血管が破れて脳出血を起こすこともあります。脳の細い血管が詰まったり破れたりすると脳血管性の認知症にもつながります。ほかにも微細な毛細血管が集まっている腎臓にも影響を及ぼし、腎臓病などを引き起こすこともあります。
高血圧は糖尿病などと並びサイレントキラーと呼ばれることもあります。自覚症状が何もないからといって、放置してよいものではありません。コロナ禍で健康診断などを控えている方も多いと思われますので、高血圧が見逃されているのではと心配です。

血圧が高いとなぜ悪いの?脳卒中(脳出血や脳梗塞)狭心症や心筋梗塞

point2  自己判断の服薬中止は危険

 ――どうしたら予防できますか。
血圧が上がる要因には、塩分の取りすぎや肥満、運動不足、過度の飲酒や喫煙、ストレスや睡眠不足などが挙げられます。中でも日本人の高血圧の最も大きな要因は塩分の取りすぎといわれています。
血圧の高い人には塩分は1日6㌘までが指標とされています。最近は様々な食品に塩分含有量が表示されていますので、常に摂取量を意識してください。飲酒は適量であればあまり影響はありませんが、タバコに関してはニコチンの血管収縮作用が非常に強いため、節煙よりは禁煙するのがよいでしょう。
適度な運動習慣は高血圧に限らず、一般的な健康増進の意味でも重要ですし、ストレス解消にも効果的です。軽く息が上がる程度のウオーキングを毎日30分程度続けるなどがおすすめですが、例えば通勤時に一駅分歩いてみる、エレベーターではなく階段を使うなど、習慣的に運動を生活に取り入れることを意識してみましょう。

 ――高血圧になってしまったら、どのように治療しますか。
生活習慣の見直しをしていただき、まず食事や運動の指導と同時に、自宅で血圧を測定していただくことが多いです。それでも十分に血圧が下がらない人は薬物治療を始めることになります。3カ月分ほどの記録を見ながら、高血圧の程度であるとか、あるいは治療中のほかの疾病の有る無しなどによってどのような薬が最適なのかを検討します。
なるべく薬を飲みたくないという方もいらっしゃるかもしれませんが、薬を飲まずに血圧が高い状態でいるよりも、薬を飲んで適切な血圧を維持する方が体の負担が少ないと考えられます。
血圧の薬は慢性的な病態に対する薬ですので、継続して服薬することが重要と考えます。一時的に血圧が下がったからと自己判断で服薬を止めてしまう方がいますが、中途半端な降圧状態では治療不十分と判断され、処方される薬が増えてしまうことにもなりかねません。一方、適切な服薬で血圧をコントロールしながら生活習慣を改めていけば、薬の量を減らせるかもしれないのです。
ビジネスパーソンの中には在宅勤務が長引き、運動不足になっている方が多いと思われます。高血圧をはじめとした生活習慣病のリスクに今一度気を配っていただければと思います。

血圧を下げるには Step:1 生活習慣の改善 食事療法(減塩と腹八分)、運動療法、禁煙など Step:2 薬による治療

企画・制作=日本経済新聞社Nブランドスタジオ
2022年10月22日掲載

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