-働く人とそのご家族のための健康講座- 脳卒中

かつては日本人の死因の第1位が脳卒中でした。現在、医学の進歩によって死亡者数こそ減りましたが、発作後の後遺症もあり、依然、恐ろしい病気であることに変わりはありません。神戸市立医療センター中央市民病院主席副院長、兼脳神経外科部長の坂井信幸先生は「脳卒中の疑いを持ったら、ためらわず救急車を呼んでください。それが生死を分けます」と呼びかけます。

異変にはためらわず119番

脳卒中 知っておきたい3ヵ条 症状は突然表れる、FASTが合言葉、すぐに救急車を、脳卒中の理解が家族や仲間を救う

講師
坂井 信幸 先生
神戸市立医療センター中央市民病院
主席副院長、兼脳神経外科部長

point1  片手や片足が急に麻痺

 ――脳卒中とはどういう病気ですか。症状や特徴を教えてください。
「卒」は「突然」という意味、「中」は「あたる」という意味の漢字です。脳卒中はその名の通り、今まで元気だった人の脳に血管の病気で突然異常が起きる疾患です。
具体的な症状には、片側の手、足、顔などに出る麻痺(まひ)やしびれ、言葉が出ない、フラフラして立てない、片目が見えない、激しい頭痛などがあります。脳は領域によって機能が異なるため、異常が起きた部位によって症状が違うのです。
原因は脳の血管の「破れ」か「詰まり」です。破れる方を出血性脳卒中、詰まる方を虚血性脳卒中(脳梗塞)といいます。

 ――出血性脳卒中について教えてください。
出血性脳卒中は、さらに2つの病型に分けられます。1つがくも膜下出血です。脳は髄膜という膜に包まれ、頭蓋骨に収められています。髄膜は頭蓋骨側から硬膜、くも膜、軟膜の3層になっており、くも膜の内側に血管が走っています。くも膜下出血は、この血管にできた瘤(こぶ)が破れることで発症します。くも膜の下の層に血液が急激に流れ込み、脳が圧迫されるので突然、頭痛が起きます。さらに吐き気、嘔吐(おうと)、最後は意識障害に陥ります。大変深刻な病気で、およそ3分の1の方が亡くなり、3分の1の方が後遺症を負います。
もう1つが脳出血で、こちらは脳のなかの細かい血管が破れて起きます。高血圧の放置によって血管が傷み、ついに破れるケースが大半です。亡くなる方はくも膜下出血より少ないのですが、脳組織の破壊で半身不随、言語障害などの後遺症に苦しむ方が多くいます。

 ――脳梗塞とはどういう病気でしょうか。
脳梗塞は脳血管が詰まって脳への血流が途絶えて脳細胞の機能が失われる病気です。主にラクナ梗塞、アテローム血栓症、心原性脳梗塞の3つの病型に分けられます。
ラクナ梗塞は脳の細い血管が詰まる病気です。障害を受ける範囲が狭いので、比較的軽症であることが多いのが特徴です。
アテローム血栓症は脳内の太い血管が、動脈硬化によって詰まる病気です。主な原因はやはり高血圧。さらに糖尿病、喫煙、コレステロール過多、大量飲酒などもリスク要因です。
心原性脳梗塞は、心房細動という不整脈や弁膜症で作られた血栓が脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせる病気です。原因は心臓にあるので、脳の血管は正常です。それだけに予兆がなく、突然、ドーンと発症します。

point2  1分でも早い治療が予後を変える

 ――脳卒中のリスクが高い人はどのような人でしょうか。
もっともリスクが高いのが、高血圧を放置している人。次に喫煙習慣のある人です。糖尿病や脂質異常、肥満の方は血管が傷み、さらに腎機能が低下しますから、これが動脈硬化につながり、脳梗塞を引き起こします。どの病型も悪しき生活習慣が大きく影響します。一方で、遺伝的要素も無視できません。親族に脳卒中の経験者がいる方は、とくに気をつけた方がいいですね。

 ――どういう治療を受けますか。
病型によって治療が異なるので、病院でまず検査をして、原因を突き止めます。
脳出血の場合は、血圧コントロールで再出血を防ぎ、さらに脳浮腫を治療します。手術をする、しないは状態次第です。一方くも膜下出血の場合、高確率で脳動脈瘤(りゅう)が再破裂しますので、必ず治療を行います。
脳梗塞の場合、まずtPA投与と血栓回収という治療があります。tPAは血栓を溶かす薬ですが、これは原則として発症後4.5時間以内にしか使えません。発症時刻不明の場合は、詳しい検査で脳梗塞が完成していない時に限り認められています。それ以降は脳細胞が壊死し、血流を再開すると大出血を起こしますので使えません。そのため脳卒中の治療は一刻を争うのです。血栓回収とは、太い血管に詰まった血栓をカテーテルで除去する療法です。原則として発症から6時間以内、条件を満たせば24時間以内に治療します。

 ――どんな予防が効果的ですか。
血圧を測って高い場合は、塩分を控え、医師に相談してください。たばこをやめること。適度な運動も大事です。とくに60代以降は、意図的に運動しないと筋肉が衰えます。筋肉を落とさず、血液の循環をよくしてください。また重症度の高い心原性脳梗塞の予防には、心房細動をしっかりと見つけ、適切に管理することが重要です。

 ――救急車を呼ぶタイミングは。
ACT‐FAST(図)という言葉があります。顔、腕、言葉に異変が起きたら、とにかくすぐ119番してください。「家族に相談してから……」「かかりつけ医に……」などと、考えてはいけません。わずかな時間が生死を分け、後遺症の有無を決めます。
また脳卒中の場合、自分では救急車を呼べない場合もあります。誰もが脳卒中の特徴をよく知っておいてください。そして疑わしい症状の人がいたら、直ちに救急車を呼んであげてください。

何かおかしい…もしかて脳卒中!? ACT! FAST!! 大切な人を守るのはそばにいるあなた!Face 顔の麻痺、Arm 腕の麻痺、Speech ことばの障害、Time 発症時刻

企画・制作=日本経済新聞社 コンテンツユニット
2022年2月5日掲載

紙面PDF

他の疾患啓発も見る

to Page Top