-働く人とそのご家族のための健康講座- インフルエンザ

2020年秋から21年春にかけてのシーズンは例年にないほどインフルエンザの流行がみられず報告患者数の少ないシーズンになりました。新型コロナウイルス感染症対策が流行の抑制に効果があったとされますが、中には大流行した感染症もあり油断はできません。インフルエンザに対しどう備えるべきなのか。川崎医科大学の中野貴司先生はコロナ対策で定着したマスクや手洗い、ワクチン接種などが感染リスクを下げると指摘します。

コロナの感染対策、予防に有効

インフルエンザ 知っておきたい3ヵ条 コロナ対策や習慣はそのまま有効、高齢者の肺炎、小児の脳症に警戒を、治療薬はライフスタイルなどに合わせ処方

講師
中野 貴司 先生
川崎医科大学
小児科学教授

point1  「今年も流行少ない」は早計か

 ――今年のインフルエンザの流行はどうなりますか。
インフルエンザは新型コロナウイルス感染症と同様、呼吸器ウイルスによる感染症です。季節性があり、例年秋から翌春にかけ流行します。2019年から20年にかけてのシーズンでは当初大きな流行が懸念されましたが、結果的には前シーズンの60%程度にとどまりました。さらに20年から21年にかけては、インフルエンザの流行はほぼなく、前シーズンをさらに下回りました。
こうした現象の理由について、コロナ対策や習慣、すなわち手洗いやマスクの着用、密の回避や人流抑制がインフルエンザの拡大をも阻止した、という見方があります。実際、手足口病の原因となるエンテロウイルスや急性胃腸炎の原因となるノロウイルスなども同時期にほとんど流行がなく、コロナ対策が感染症抑制に一定の効果をあげたことは確かでしょう。
ただ、19~20年のシーズンでインフルエンザは20年1月から終息し始めており、日本での本格的なコロナ対策が同2、3月ころから始まったことを考えると、それだけが理由であると断定するのは難しいと思います。感染症の流行についてはまだわからないことが多く、コロナ対策が続く限りインフルエンザの流行も少ないと考えるのは早計です。
例えば乳幼児の流行性疾患であるRSウイルス感染症は、21年に入り前年の数百倍という大流行をしており、これは前シーズンの患者が低く抑えられ、今シーズンはウイルスに対し感染しやすい集団があったためと考えることもできます。インフルエンザに関しては2シーズン、患者数が極めて少なかったことから、次シーズンで大きく増える可能性もあると心配しています。

 ――インフルエンザはどのように防げばよいのでしょう。
インフルエンザはコロナ同様、飛沫感染が主な感染経路です。また飛沫が付着した箇所に触れることによる接触感染もあります。そのため、マスクや手洗いなどのコロナ対策はインフルエンザ予防にも有効です。換気や人混みを避けるなども効果があります。もちろんワクチンも有効です。インフルエンザワクチンは日本では不活化ワクチンが用いられており、長年にわたる安全性のデータがあります。またインフルエンザの発病や重症化を予防する効果が認められています。流行前にワクチンを接種することでリスクを下げることが期待できます。

新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの比較 図

point2  警戒すべき合併症 急変に注意

 ――かかってしまった場合、どんなことに気をつけるべきでしょう。
体内に侵入したインフルエンザウイルスは呼吸器粘膜で急激に増殖し、高熱や、強い倦怠(けんたい)感などの全身症状が表れます。一般的な風邪やコロナと見分けがつきにくいのですが、現在はインフルエンザ迅速診断キットも普及し、すぐに確定診断できます。
インフルエンザには危険な合併症があり、高齢者の場合は肺炎のリスクが高くなります。インフルエンザに感染することで抵抗力が落ち、細菌性の肺炎を発症することもあります。重症化し亡くなるケースも多く注意が必要です。
小児の場合はインフルエンザ脳症が心配されます。多くの場合、インフルエンザ発症2日以内にけいれんや意識障害、うわ言などの異常言動、部屋を動き回るなどの異常行動が見られます。脳障害や多臓器不全をきたすこともあり、後遺症や命を落とす危険もある重大な合併症ですので速やかな対応が必要です。急激に症状が進むことが多いので小児がインフルエンザにかかってしまった場合は目を離さないようにしてください。

 ――治療にはどのような薬がありますか。
新型コロナウイルス感染症は今のところ発症初期からの一般外来での治療対応は容易ではありませんが、インフルエンザにはウイルスの増殖を抑える治療薬が何種類も存在します。カプセルや錠剤などを内服するタイプや、薬剤を口から吸入するもの、点滴用もあります。小児にも使いやすいネブライザーという吸入器で吸入するものも登場しています。服用方法も1回の薬剤や複数に分ける薬剤などがあります。いずれも高い効果を示しており、治療に対する希望やライフスタイルに合わせた処方が可能です。ただ治療薬により症状が治まったからといってもまだ他の人に感染させる可能性はあり、すぐに通勤や通学をするのは控えてください。十分な休養を取り、体力の回復に努めましょう。
この1、2年は特異的に患者数が低く抑えられていますが、例年インフルエンザは国内で1000万人以上の患者が発生し、約1万人が亡くなるといわれる危険な感染症です。コロナ禍で習慣化した感染症対策を続け、さらにインフルエンザワクチンの予防接種でしっかり防ぎましょう。

企画・制作=日本経済新聞社 コンテンツユニット
2021年10月30日掲載

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