緩和ケアというとがん治療の終末期に行われるもの、というイメージを持たれている方が多いと思います。しかし島根大学の齊藤洋司先生は、緩和ケアは最初から受けるべきと指摘しています。緩和ケアとは何か、どのように行われるのか、また誤解されやすい薬物治療についても解説していただきました。

緩和ケアを正しく理解する

胃がん 知っておきたい3ヵ条 50歳前後から罹患率増加、胃潰瘍と同様の初期症状に注意、内視鏡検査、早期発見に有効

講師
齊藤 洋司 先生
島根大学 医学部
麻酔科学教授

point1  ケア開始、診断後すぐが理想

 ――緩和ケアとはどんなものですか。
緩和ケアは人の持つさまざまな痛みを和らげることを目的とする医療です。ターミナルケア(終末期医療)と混同されている方も多いのではと思います。ターミナルケアは老衰や疾患、障害等の進行により死が避けられないと判断されたときに行う医療であり、治療よりも残された生活を心穏やかに過ごしてもらうよう努めるものです。
一方、緩和ケアは決して終末期のみに行う医療ではありません。例えばがんと告知されたとき、まだ体に痛みがなくとも大きな不安に襲われ心が痛みます。また、家族や仕事などについても心配が募ります。このようにがんによる身体的な苦痛だけでなく、精神的な痛み、社会的な痛みの治療も緩和ケアの対象であり、病気の診断がついた時からスタートする点がターミナルケアとの違いです。
緩和ケアが対象とする病気はがんとは限らず、患者の生命や将来を脅かすような重大な疾患全般が対象となります。治療する痛みもさまざまです。まず、日常生活に支障が出るような身体的な痛み、病気になることで感じる不安や恐怖、孤独感などの精神的な痛み、家庭や仕事への不安などの社会的な痛み、そして生きることや存在することの意味、価値などを思いつめるような苦しみであるスピリチュアルな痛みなどです(図1)。体が痛ければ心も苦しみを感じるなど痛みは相互に関係があるため、緩和ケアではこれらの痛みに個別に、そして全人的な痛みとして包括的に捉え治療を行います。

(図1)人の痛み

 ――緩和ケアの目的とはなんでしょう。
痛みがあっても誰にも訴えず我慢してしまう方もいると思いますが、痛みを抱えたまま生活を送ることは決してその人にとって幸せなことではありません。なるべく今までの生活を続けながら生活の質(QOL)を上げ、より良い療養につなげることが緩和ケアの目的の一つです。また痛みを抱えたままだと、抑うつ、不安など心の痛みも大きくなります。そうしたリスクの軽減もできます。
がん患者を対象とした研究では痛みを早期から緩和することで生存期間が延長するという報告もあり、なるべく早くから、治療と同時に緩和ケアをスタートすることが大切です(図2)。

(図2)緩和ケアは早くから

point2  精神面や家族の心痛もサポート

 ――緩和ケアではどのような治療が行われるのでしょう。
身体的な痛みには薬物を使った治療が中心になり、他に放射線療法や神経ブロック療法などもあります。がんなどによる強い痛みには主にオピオイド製剤と呼ばれる薬剤が使用され、他の薬では対応できない痛みにも高い鎮痛効果を示します。オピオイド製剤の多くは医療用麻薬で、「麻薬」と名前がついていることから、中毒や依存になってしまうのではないかと心配される方もいますが、医師が適切に管理して使用するためそのようなことを心配しすぎる必要はありません。

 ――精神的な痛みや社会的な痛みなどにはどのように対処するのでしょう。
それぞれに専門的なスタッフが当たることになりますが、緩和ケアでは全人的な痛みに対応するためチームでのケアが一般的です。身体的な痛みの治療には医師や看護師が、薬剤については薬剤師、精神的な痛みには臨床心理士、栄養面には管理栄養士、口腔衛生には歯科医師や歯科衛生士、リハビリには理学療法士などが当たります。また患者の社会的な支援にはソーシャルワーカーが、就業継続のための勤務先との調整は労務管理担当者など、病院の内外を問わずそれぞれの担当者が連携しながら患者を治療・支援する体制を整えます。
支援の窓口として、がんの場合はがん拠点病院に支援室などが、また各自治体には地域包括ケアシステムによる行政窓口がありますので相談されるのがよいでしょう。がん診療拠点病院には緩和ケアチームがありチーム医療が受けられます、また緩和ケア病棟という専門の入院施設を備える病院もあります。入院が難しい場合は在宅や通院での治療もできますし、働きながら緩和ケアを受けることも可能です。その人らしい生活を続けながら、治療を受けていただくことができます。

 ――患者の家族など周囲の人に対するケアはありますか。
重い病と闘っておられる方はその家族も大きな負担がのしかかっています。そうした方々のために患者を一時的に病院で預かり家族に休息をとっていただくレスパイト入院という制度を用意している病院もあります。また不幸にして大事な方を失ったときに、大きな喪失感から希望を失う家族の方もいます。そうした遺族の喪失感を癒すことを目的としたグリーフケアと呼ばれる家族を対象とした緩和ケアもあります。決して自分たちだけで抱え込まず、専門家に相談していただければと思います。

企画・制作=日本経済新聞社 コンテンツユニット
2021年10月16日掲載

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