日本人の死因の第2位を占める心臓病(※1)。治療法の進歩により、命を救われる方が増えていますが、高齢化の進展により心臓病を抱えたまま長い人生を送る方も増えています。一方、新型コロナウイルス感染症の拡大により、心臓病を取り巻く状況の悪化が懸念されています。心臓病の予防や新型コロナ感染症について何を注意すべきか、神戸大学医学部付属病院・病院長の平田健一先生に伺いました。

生活変化で心不全増加を懸念

講師
平田 健一先生
神戸大学医学部内科学講座
 循環器内科学分野教授
神戸大学医学部付属病院 病院長
日本循環器学会 代表理事

point1  まずは生活習慣改善で予防を

 ――心臓病にも様々な病態があると思います。よくいわれる「心不全」とはどんなものですか。
我が国の循環器疾患の死亡数は、がんに次いで第2位となっており、心不全による5年生存率は50%(※2)と予後についても決して良くありません。ただ、その事実と心不全の怖さについては、国民にあまり知られていないのが現状です。そのため、心不全について、国民によりわかりやすく理解してもらうため、2017年に日本循環器学会と日本心不全学会が連携し、新たに心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」と定義しました。心不全に至る原因には様々な病気があります。
まず、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患。冠動脈とは心臓の筋肉に栄養を供給する血管です。冠動脈が詰まるなどして血流が途絶え、心臓の筋肉(心筋)が壊死してしまう病気が心筋梗塞です。突然発症することも多く、命に関わる危険な病気です。一方、冠動脈が狭くなることにより血流が悪くなるのが狭心症です。運動をしたときに胸が苦しくなるなどの症状が表れます。
不整脈も心配な病気です。不整脈の一つである心房細動では、心臓の中に血栓ができやすくなり、それが血流に乗り脳の血管を詰まらせることで、脳梗塞を引き起こすことがあります。
他に心不全の原因として挙げられるものに、心臓の弁の異常により引き起こされる弁膜症や、心臓の筋肉が肥大してしまう心筋症、心臓に直接つながっている大動脈に異常が起きる大動脈瘤(りゅう)や大動脈解離などもあります。

 ――心臓病の予防は可能でしょうか。また発症してしまった場合、治療はどのように行われますか。
遺伝など先天的な要素の病気もありますが、冠動脈疾患など血流が悪くなることで発症する病気は、動脈硬化が主な原因となる後天的なものです。動脈硬化は糖尿病や高血圧、脂質異常症、また肥満や喫煙などにより引き起こされます。まずは食事や運動、禁煙などの生活習慣の見直しが予防につながります。
生活習慣の見直しで十分な改善が見込まれない場合や、狭心症や不整脈などの症状がある場合には、医師の指導により薬物療法が行なわれます。動脈硬化を改善する薬や血栓をできにくくする薬、血圧を下げる薬などが使われます。
症状が悪化している場合や緊急の場合は外科的な手術が行われます。現在は治療法が進歩し、心不全の救命率は大きく上がっています。ペースメーカーや人工心臓など医療機器の進歩もあります。カテーテルによる治療など負荷の少ない手術法も一般的になってきました。
心臓病は高齢になるにつれ罹患(りかん)率が上がります。また心臓病の治療後に心機能が低下した状態で老後の生活を送る方が増えており、高齢化の進む日本では心不全患者の増加が、医療体制の圧迫などの社会問題となることが懸念されています。日本循環器学会では心不全療養指導士という制度をつくって、心不全の悪化を防ぐ活動を続けています。

point2  新型コロナ感染症の影響、様々な方面に

 ――新型コロナ感染症の拡大が及ぼす影響はいかがでしょうか。
様々な方面で大きな影響が出ています。まず新型コロナ感染症自体が心臓病に及ぼす影響ですが、血栓ができやすくなるという報告があり、これが心臓病を抱える方の病状を悪化させることが懸念されています。また心臓病患者は循環器の機能が低下した状態にあるため、感染症により呼吸困難などが起きた場合、病状が急激に悪化する恐れもあります。
医療体制の問題も深刻です。心臓病を抱えられた方が呼吸困難になり救急外来に来られ、心不全の治療をしたところ実際は新型コロナ感染症で、医師や看護師が感染してしまったという事例もありました。このようなことを防ぐため、厳格な防護体制をしたうえで救急対応をする必要があります。また循環器医療を担っている病院がコロナ対応をせざるを得なくなり、本来受け入れられていた患者さんを受け入れられないということも起きています。

 ――感染症拡大下ではどのようなことに気を付けるべきでしょう。
感染への懸念から受診自体をためらう患者さんも増えており、病状が悪化してしまうケースも見受けられます。また生活様式の変化も心配な要因です。在宅勤務が増え、運動不足や偏った食事などにより、肥満や高血圧の増加などが懸念されます。高齢者の活動量が減少していることも報告されており、こうした変化が数年後に心不全患者数の増加として表れてくるのではないかと心配です。
新型コロナ感染症についてはネットなどに膨大な情報があふれていますが、自己判断で通院や服薬をやめるということのないように気を付けていただきたいと思います。日本循環器学会では心臓病と新型コロナ感染症について注意を呼び掛けるとともに、ホームページで詳細な情報を公開しています(下図)。ぜひ参考にしてください。

(図)日本循環器学会では心臓病患者に新型コロナ感染症拡大下で注意すべき4つのポイントを呼び掛けている

※1 人口動態統計(厚生労働省)
※2 出典:脳卒中と循環器病克服5 ヵ年計画、2016 年12 月、日本脳卒中学会 日本循環器学会

企画・制作=日本経済新聞社イベント・企画ユニット
2020年12月5日掲載

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