国民の3人に1人以上、約4300万人もの方々が高血圧であるとされています。高血圧は命に関わる大きな病気につながることが多く注意が必要です。また新型コロナウイルス感染症の拡大により、生活習慣が大きく変化、そのことが高血圧患者にどのような影響を与えているかも心配されています。大阪大学老年・総合内科学教授の楽木宏実先生に伺いました。

在宅による血圧上昇が心配

講師
楽木 宏実先生
大阪大学 大学院医学系研究科
老年・総合内科学 教授

point1  血圧「高め」でも油断は禁物

 ――日本には高血圧患者はどれくらいいるのでしょう。またその影響とは。
我が国では診察室での血圧が収縮期140㎜Hg、拡張期90mmHg以上の方を高血圧としています。国内における有病者数は約4300万人と推計されており、うち治療を受けている方は半分強、血圧をコントロールできている方はさらにその半分とされています。
この数字に血圧が「高め(120-139/80-89mmHg)」の方は含まれていません。診察室での血圧の正常値は120/80mmHg未満とされており、米国などでは130/80mmHg以上を高血圧としています。高血圧は日本人の主な死因である心疾患、脳血管疾患などの発症に関わり、生活の質を落とし、生命を脅かす要因となっています。

 ――なぜ高血圧が致命的な病気を引き起こすのでしょう。
高血圧により、長い間血管に圧力がかかり続けると血管が内側から傷んできます。すると血管が破れて脳出血を起こしたり、傷んだところに血の塊ができて、血管に詰まり心筋梗塞や脳梗塞を起こしたりします。高血圧自体はほとんど自覚症状がないにもかかわらず、致命的な病気の引き金を引いてしまうわけで、高血圧が「サイレントキラー」と呼ばれるゆえんです。また同じように脳内の血管が傷むことで認知症の原因にもなると考えられています。
高血圧になる要因は遺伝的な要素と、塩分の高い食事や喫煙、肥満など生活習慣による要素があります。また精神的ストレスなども血圧上昇の要因になります(図1)。

 ――血圧は加齢と共に上がってくるものなのでしょうか。
そう思われがちですが、自分は年齢なりの平均値だと安心している人は考え方を変える必要があります。血圧が上がれば上がるほど、脳心血管病のリスクも確実に高まることがデータから明らかです。特に40~64歳の中壮年者層では血圧の上昇とともに、脳心血管病で亡くなるリスクが非常に大きくなります(図2)。同データでは130/80㎜Hgくらいの人でもリスクが2倍になるなど、血圧が「高め」程度でも油断はなりません。特に若い時から血圧が高い人ほど、その影響が強まるので注意が必要です。
血圧が高めの人には、食事と運動習慣の改善がお勧めです。もし高血圧の基準を超えてしまったら、降圧薬も積極的に使い、血圧の管理に努めましょう。「降圧薬も」というのは、やはり生活習慣の改善が基本であるということです。
主な降圧薬には5つの種類があります。1つは血管を広げるタイプのカルシウム拮抗薬。次が体内の水分排せつを促進する利尿薬、また血圧を上げるホルモンを作らないようにするタイプのACE阻害薬と、同ホルモンの働く場所をブロックするタイプのARB、そして過剰な心臓の機能を抑えて血圧を下げるβ遮断薬が主に使われます。また、血圧を上げるホルモンが働く場所の活性化を抑制するMRBもあります。どの薬を使うかは、患者さんの持病や体質などから、その人に合ったものを医師が選択します。

point2  生活の変化によるリスクに注意

 ――基礎疾患のある人は新型コロナ感染症の重症化リスクが高いと聞きます。
高血圧患者が新型コロナに感染しやすい、ということはないと思います。一方、重症化については、直接の要因というより、高血圧によりすでに血管や臓器が傷んでいるところに新型コロナにより大きな負荷がかかるため、重症化につながると考えられます。高血圧の方は重症化リスクがあるといえるわけで、やはり注意が必要です。また新型コロナに関しては、降圧薬の使用について様々な議論もありますが、専門家は薬をやめることによって血圧が上昇し、脳心血管病につながることの方が心配だと考えています。

 ――長引いた外出自粛などが高血圧患者に影響を与えた可能性はあるでしょうか。
在宅時間が長くなり、その間に塩分の高いスナック菓子などを食べすぎたとか、運動不足で体重が増加したなどという方は、血圧上昇のリスクが高まることがあるでしょう。普段と違う生活スタイルによって精神的ストレスがたまり、血圧上昇につながることもあると考えられています。
また普段通院されている方が、病院に行きにくくなったことで血圧の管理が難しくなることが心配です。私は「高血圧は診療の窓」と考えています。つまり高血圧の陰に潜んでいる重大な病気を、患者さんとのやり取りを通じて見つけようとしており、その機会が減ることも懸念しています。
高血圧は無症状の方がほとんどです。働き盛りの時に「大丈夫だ」と思っていても、退職し自分の人生を楽しもうと思った矢先に長年の高血圧の影響で大きな病気になることもあります。若い時から血圧管理に気を付けていただきたいです。

企画・制作=日本経済新聞社イベント・企画ユニット
2020年10月25日掲載

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