新型コロナウイルス感染症の拡大による自粛によって、外出の機会が減っています。しかし、高齢者が一日中家に閉じこもり、誰とも話さないような生活を送っていると、筋力はもちろん認知機能も衰えてしまいます。要介護ではないものの、その一歩手前である心身の弱った状態を「フレイル」と呼びますが、その予防には何を心がければいいのでしょうか。日本老年医学会理事長の秋下雅弘先生に伺いました。

自粛によるフレイルに注意

講師
秋下 雅弘先生
日本老年医学会 理事長
東京大学医学系研究科 老年病学教授

point1  コロナ禍が高齢者の筋力低下を招く

 ――新型コロナウイルス感染症の重症化リスクは高齢者ほど高いといわれています。
高齢者ほど重症化しやすいことは、厚生労働省のデータにもはっきり表れています。これは国内だけでなく、欧米やアジア各国など、世界的に共通した傾向です。理由はいくつか考えられますが、加齢による免疫系の低下や、臓器の機能低下があげられます。さらに、高齢者には糖尿病や心臓病などの基礎疾患を持つ方が多いことも一因となります。また若年者の場合、罹患しても無症状で気付かない方が多いのに対し、高齢者の場合は有症状でも、他の病気などと混同して自覚しにくい傾向にあります。感染に気付いたときには、すでに重症化しているケースが多いのです。

 ――感染予防のポイントを教えてください。
手洗いの励行、次いでマスク着用が大切です。また、高齢者の場合は聴覚の衰えなどで、どうしてもソーシャルディスタンス(社会的距離)がとりづらくなりがちですから、その点にも注意が必要です。一方、感染を恐れるあまり、家に閉じこもり「生活不活発」になってしまうことも問題です。活動の減少によって、身体や頭の働きが低下し、日常の動作が行いにくくなったり、疲れやすくなったり……。このように高齢者において運動機能や認知機能が低下し、心身がぜい弱となることを日本老年医学会ではフレイルと呼んでいます(図1)。フレイルが進行すると、感染症に対する抵抗力も落ち、新型コロナをはじめ、様々な疾病に対する重症化リスクを高めてしまいます。


 ――フレイルをチェックする目安はありますか。
1つは「体重の変化」です。半年で2キログラム以上減少している場合、フレイルである可能性があります。第2は「筋力の低下」です。例えばペットボトルの蓋が開けづらくなったなどは要注意です。第3は「動作緩慢」です。片側2車線道路を、信号が青のうちに渡り切れなくなる、などが当てはまります。最後は「疲れやすさ」です。こうした自覚がある方は、フレイルに対する注意が必要です。フレイルの恐ろしさは負のスパイラルに陥ることです。外出自粛で筋力や認知機能が衰えはじめる。そうなると買い物などがおっくうになり、調理や食事もおざなりになります。低栄養になれば筋肉はますます衰え、さらに動けなくなる悪循環に陥るのです。フレイルには身体的なものだけでなく、記憶の低下やうつ状態になる心理的フレイル、社会とのネットワークが切れてしまう社会的フレイルもあります。コロナ禍による生活不活発が心配される現在、こうしたフレイルにも十分な注意が必要です。

point2  IT利用で高齢の親の孤立を防ぐ

 ――フレイルは予防できますか
フレイルは病気ではなく、心身の状態を表す概念であり、自力での予防や改善が可能です。身体的フレイルの場合、身体をこまめに動かすことが重要になります。例えば、テレビを観ていても、コマーシャルの時間になったら意識して立ち上がるなど、できるだけ座っている時間を減らしましょう。スクワットなどの運動を取り入れることもお勧めです。
筋力維持には食事も大切です。何らかの基礎疾患で食事制限を受けている方は別ですが、そうでなければ、高齢者でも体重1キログラム当たり、最低1日25~30キロカロリーは摂っていただきたいですね。また、筋肉の材料となるたんぱく質は肉類や乳製品などから体重1キログラム当たり、1日に1グラムを摂る必要があります。

 

 ――高齢の親を持つ子として、できることはありますか。
フレイルの予防には、人と人との交流がとても大切です。ところがコロナ禍による自粛が始まり、高齢者の活動量が3割ほど減ったと報告されています(図2)。外出しにくい状況のいまこそ、家族との活発なコミュニケーションが求められます。
高齢の親と離れて暮らす方には、実家のIT環境を整備し、テレビ電話などで頻繁にコミュニケーションをとることをお勧めします。おしゃべりは心理的フレイルの防止ばかりでなく、口や喉の周りの筋肉の衰え(オーラルフレイル)を防ぎ、これによって引き起こされやすい誤嚥性肺炎などの予防につながります。
同居、別居を問わず、高齢の親を孤立させない。そしてフレイルのことをお互いによく知り、これを予防する。こうした取り組みを、ぜひ実行していただきたいですね。

企画・制作=日本経済新聞社イベント・企画ユニット
2020年9月5日掲載

to Page Top