ロコモティブシンドロームにならないための早めの対策とは?

慶應義塾大学 医学部
整形外科学教室教授
松本 守雄 先生

[プロフィール]
・1986年 慶応大医学部卒 ・1998年 慶応大医学部助手、米オルバニー医科大留学 ・1986年 慶応大医学部卒
・1998年 慶応大医学部助手、
      米オルバニー医科大留学
・2003年 慶応大医学部専任講師 
・2008年 慶応大医学部准教授 
・2015年 慶応大医学部教授 
・2019年 日本整形外科学会理事長

日本は、世界トップクラスの長寿国になりましたが、日常生活に制限なく過ごす「健康寿命」の期間を延ばすことが重要です。2007年に日本整形外科学会は、要介護や寝たきり、そのリスクの高い状態を「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群、略称・ロコモ)と命名し、市民に予防を呼びかけています。今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、自宅にこもり、運動の機会も減っていることが懸念されています。ロコモの現状と予防への取り組みについて、同学会理事長で慶應義塾大学医学部教授の松本守雄先生に聞きました。

Q1ロコモの原因は何でしょうか?

A呼吸関係の臓器を「呼吸器」、食べ物の消化・吸収関係の臓器を「消化器」というように、「立つ」「歩く」などの動きを支える骨、関節、筋肉、靱帯、神経などを「運動器」といいます。ロコモは運動器の衰えが原因ですが、突然起きるわけではありません。加齢とともに、筋力やバランス能力は徐々に低下し、移動機能の低下を来たし、転倒や骨折をしやすくなります。骨粗鬆症や変形性関節症、歩行時や立っている時に腰や足に痛みやしびれが出る脊柱管狭窄症、などの疾患もロコモの原因になります。ロコモが進行し、腰や関節に痛みなどの症状が続くと、生活に支障が出てきます。要介護・要支援になった人の約25%が骨折や転倒、関節の疾患など運動器関連が原因(※)です。日本では運動器に対する手術が年間約130万件行われていますが、高齢者の占める割合が増えていると実感しています。
(※)※出典:平成28年 国民生活基礎調査より

Q2国内にロコモの人はどのくらいいますか?

A骨や筋肉の量は30~40代にピークを迎え、適切な負荷をかけていかないと衰えていきます。また、痩せすぎは骨や筋肉を弱くし、太りすぎは腰やひざに負担をかけ、けがをしやすくなります。ロコモは高齢者の問題と受け止められがちですが、運動不足や乱れた食生活をしている若い世代も注意が必要です。将来の寝たきりや要介護につながるロコモに該当する人は全国で約4600万人と推計されています。高齢社会白書によると、2018年の高齢化率は28%に達しました。介護費用総額は11.1兆円で、2000年に比べて3倍です。高齢化は今後ますます進むでしょう。健康寿命を延ばし、いつまでも元気に過ごすことは、ご本人やご家族にとって幸せなだけでなく、社会にとっても重要です。

ロコモの該当者:4,600万人、2018年の高齢化率:28%

Q3本人が早めに気づくことができるよう、自己診断は可能ですか?

A日本整形外科学会では、日常生活からロコモの危険度がわかるように「7つのロコチェック」を作成しました。具体的には、チェックリストにある7項目で、1項目でも当てはまればロコモの心配があります。

自分でチェックしてみよう、7つのロコチェック

運動とバランスのよい食事を習慣に

Q4予防や治療法について教えてください。

A加齢が最大の理由なだけに、だれもがロコモになりえますが、進行を防ぐことは可能です。自宅で手軽にできる運動がおすすめです。具体的には、バランス能力をつける「片脚立ち」、下肢の筋力をつける「スクワット」、ふくらはぎの筋力をつける「ヒールレイズ」、下肢の柔軟性・バランス能力・筋力をつける「フロントランジ」などです。
食生活も大切です。高齢期では、血液中の栄養成分が低い人や痩せたりしている人は、要介護になるまでの期間が短い傾向があります。1日3回の食事で、5大栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく取ってください。食べたいと思えるように、和食・洋食・中華などと献立に変化をつけたり、色の濃い野菜などを取り入れたりして、彩り豊かな食卓にしましょう。家族や友人と食卓を囲むのも効果的です。
一方、ロコモの原因となる疾患の治療法については着実に発展しています。例えば、骨粗鬆症の治療薬は複数の選択肢が揃いましたし、手術方法や人工関節の性能も進歩しました。失われた軟骨を再生する医療も実用化されており、症状などにあわせた治療法を選択することができます。

自宅で気軽にできるロコモ予防運動:一分間の片脚立ち、スクワット

バランスのよい食事:たんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル

Q5新型コロナウイルスの感染拡大で、自宅に引きこもり、運動不足になっている人が増えているようです。

A運動不足はロコモを進行させる恐れがあります。自宅で手軽にできる運動を先述しましたが、ネットやテレビでもさまざまなエクササイズが紹介されています。ご自身の体力や筋力にあわせてチャレンジしてみてください。そして、歩くことは、ロコモ防止に最適な方法の一つです。3密(密閉・密集・密接)を回避し、マスク装着などの感染予防をした上で、散歩などは積極的に行ってください。自宅にこもってストレスをためることは健康維持にはマイナスです。腰痛や関節痛など気になる症状があれば、電話で事前に医療機関にご相談の上、受診してください。早めの治療はやはり大切です。

人生100年時代、1億総活躍社会がうたわれています。ぜひ、仕事に趣味にと、生き生きした生活が過ごせるよう、ロコモ予防に取り組んでください。

企画・制作=毎日新聞社営業総本部
2020年9月27日掲載

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