DoctorQ 専門医に聞く最新医療企画 骨粗しょう症の新常識 ~生活習慣病は骨粗しょう症のリスク~

今日のポイント ■ 転ばないのに、「いつの間にか骨折」も ■ 生活習慣病の人は特に注意 ■ 若いうちから自分の骨量に関心を

東京大学大学院医学系研究科 老年病学 准教授
小川 純人先生

[プロフィール]
1993年東京大学医学部卒業、99年同大学大学院を修了後、カリフォルニア大学サンディエゴ校細胞分子医学教室、東京大学医学部附属病院老年病科助手、文部科学省高等教育局医学教育課参与(専門官)等を経て2013年より現職。日本骨粗鬆症学会理事・認定医ほか。

骨粗しょう症は自覚症状がないまま進行し、転んだりケガをしたりしたわけでもないのに骨折する「いつの間にか骨折」を引き起こすことが あります。さらに足の付け根を骨折すると寝たきりになってしまうことも。いつまでも自分の足で歩き、いきいきと生活するためには、まず検診を受け、自分の骨量(骨密度)を知ることが大切です。また近年、生活習慣病との関連が注目されています。骨粗しょう症の新常識について小川純人先生に伺いました。

Q骨粗しょう症とはどんな病気?原因は?骨強度が低下し骨折リスクが高くなる骨格疾患。骨代謝のバランスの崩れで発症

骨粗しょう症の疫学 骨粗しょう症患者数※1 計1,590万人、女性1,118万人、男性410万人 骨粗しょう症の年代別有病率[女性]※2 60歳代:約5人に1人、70歳代:約3人に1人、80歳代:約2名に1人

骨量(骨密度)が減る、または骨質が低下することで骨強度が低下し(骨がもろくなり)、骨折しやすくなる病気です。骨折や痛みなどの自覚症状がなくても、骨量(骨密度)が低下していると骨粗しょう症と診断されます。加齢とともに進行し、骨折して初めて気がつく人が多いため、「沈黙の疾患」とも呼ばれています。
背中や腰が痛い、腰が曲がってきた、身長が低くなった(若い頃より身長が2~3cm程度縮んだ)などは、老化によるものと思いがちな症状ですが、既に骨粗しょう症による背骨の骨折を起こしているかもしれないことを疑うポイントです。放置していると、着替えや歩行など日常生活の動きに支障をきたすことがあります。やがて、他の背骨の骨折(ドミノ骨折)、足の付け根の骨折などで寝たきりにつながるなど生命予後に直結するため要注意です。

骨粗しょう症の主な原因 ※3 ●加齢 ●閉経 ●家族の骨折歴 ●内分泌疾患 ●食生活(ダイエット含む) ●運動不足 ●生活習慣病(糖尿病・慢性腎臓病など)●喫煙、過度の飲酒 ●薬剤(ステロイド薬など)

現在、骨粗しょう症の潜在患者数は全国で1,590万人と推計されますが治療を受けているのは30%程度と言われています。圧倒的に多いのは女性ですが、男性も増加傾向にあります。加齢とともに患者数は増え、「80歳代の女性の2人に1人」が骨粗しょう症と言われます。
原因としては、加齢、閉経、過度なダイエット、運動不足、グルココルチコイド(ステロイド)薬の長期服用、生活習慣病などが挙げられます。骨は成長期にカルシウムを蓄積し、女性は15~18歳頃、男性は20歳前後に人生最大の骨量に達します。骨は、古い骨を壊す作業(骨吸収)と新しい骨を作る作業(骨形成)を繰り返す「骨リモデリング」という新陳代謝を絶えず行っていますが、さまざまな原因でこの新陳代謝がアンバランスになり、骨量を十分に回復することができなくなると骨量減少が始まるのです。

Q骨粗しょう症の診断・治療、生活習慣病との関連生活習慣病との共通病因も。治療の軸は食事・運動・投薬の3つ

骨粗しょう症予防のための生活習慣の管理 ※3,4 ■栄養管理 バランスの良い食事、カルシウム・ビタミンD,Kなどの摂取 ■運動療法 ウオーキングや筋力トレーニングなど骨に刺激が加わる運動 ■日光浴 体内でのビタミンD生成に必要な日光を浴びる ■嗜好品 禁煙、過度の飲酒・多量のコーヒーは控える

近年、生活習慣病(糖尿病、慢性腎臓病、COPD、脂質異常症など)があると、骨粗しょう症になりやすいことが明らかになりました。骨粗しょう症と生活習慣病では、どちらも酸化ストレス(活性酸素)の増大が病因として大きく関わっています。さらに、骨折による運動の制限で生活習慣病の進行が早まる、糖尿病の合併症や低血糖などで転倒し骨折する、といった負のスパイラルに陥ることも。生活習慣病がある方は、受診時に骨粗しょう症について相談してみるとよいでしょう。
治療は骨量の減少具合によりますが、中心は薬物治療で、食事療法と運動を並行して行います。治療の目的は、骨強度を高めて骨折を防ぎ、QOL(生活の質)を保つことです。薬の種類は、骨が壊れるのを防ぐ骨吸収抑制剤、骨の形成を促す骨形成促進剤、と大きく2つに分かれます。治療中は、骨吸収と骨形成を反映する骨代謝マーカーを指標に薬の効果を確認します。自己判断で服薬をやめてしまうと骨折の予防が難しくなります。治療は根気強く続けましょう。

Q健康寿命の延伸のために まず、検診で自分の骨量を把握。丈夫な骨づくりで健康寿命を延ばす

40歳ごろから定期的に検査を受け、現在の自分の骨量を知っておきましょう。初回の骨折を防ぐためには、「成長期に高い骨量を獲得すること」、それ以降は「その骨量をできる限り維持すること」がポイントです。骨粗しょう症については、整形外科以外に内科、婦人科などのかかりつけ医でもよいので、まずは気軽に相談してみるとよいでしょう。
この度の「健康日本21(第三次)」の目標に、骨粗しょう症検診率の向上が盛り込まれました。無症状の段階で骨粗しょう症およびその予備群を発見することで、骨折を予防し、健康寿命の延伸につなげることを目指したものです。実際、骨粗鬆症財団の調査で、検診受診率が低い地域ほど足の付け根の骨折が多く、要介護になる人の割合も多いことがわかっています※5。介護予防のためにも検診をしっかり受けることが必要と言えそうです。
骨粗しょう症を高齢者や女性だけの問題と思わず、すべての世代で骨の健康に取り組むことが大切です。末永く健康で生活していくために、食事内容や運動を意識し、また検査を有効に活用して骨粗しょう症を予防していきましょう。

※1: Yoshimura N. et al.: J Bone Miner Metab. 2022; 40(5): 829-838
※2: 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編:
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.ライフサイエンス出版
※3: 厚生労働省 e-ヘルスネット 藤井紘子. 骨粗鬆症の予防のための食生活
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-007.html
※4: 河路秀巳, 伊藤博元.: 日本医科大学医学会雑誌. 2009; 5(1): 41-46
※5: 山内広世ほか.: 日本骨粗鬆症学会雑誌. 2018; 4(4): 513-521

企画・制作=朝日新聞社メディアビジネス局
2023年10月21日掲載

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