オルメテック®開発ストーリー
「使命感」と「研究戦略」に支えられて世界へ
カプトプリルの導入から自社開発のテモカプリルへ
高血圧症治療剤オルメテック(一般名 オルメサルタン メドキソミル、米国での商標Benicar®、EUでの商標 Olmetec®)はアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で、強い降圧効果と高い安全性を有し、すぐれた臓器保護作用も期待される薬剤です。ARBの中では世界で7番目に上市された製品にもかかわらず、世界の50ヶ国以上で年間2,000億円販売され、「ベストインクラス」と評されています。これらのことが高く評価され、2008年度の日本薬学会創薬科学賞を受賞しました。
ここにいたるまでの一連の開発の経緯を、研究・開発にたずさわった柳澤宏明氏、小池博之氏にインタビューしました。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬カプトプリル導入の決断
小池氏
オルメテックの開発を語るには、まずカプトリル®(一般名:カプトプリル)と、カプトプリルに続くエースコール®(一般名:塩酸テモカプリル)の開発とその成功について言及しておかなければなりません。ことのはじまりは1977年にスクイブ社のカプトプリル導入の話が浮上したことでした。同社では1975年に世界で初めてのACE阻害薬の開発に成功し、1977年には臨床試験の結果がある程度集積されていました。
- 小池:
- 「当時、会社の命令で米国へ向かったころ、それまで心臓が専門だった私はACEについては何ひとつ知らず、往きの飛行機の中で必死に勉強したことをおぼえています。プリンストンのスクイブ社ではカプトプリルの概要と臨床試験データが紹介されました。ところが日本にデータを持ち帰ると、臨床における副作用が多いことが問題となり、導入はなかなか決められない。慎重な議論の末、副作用は用量を下げれば避けられるだろうと判断し、やっと会社は導入を決定しました。アメリカの半分以下の用量を用いて臨床試験を行った結果、試験はスムーズに進み、アメリカよりも早く1982年に使用制限なしで承認されました。カプトプリルの使い方はまさに日本で発見したものだと言えるでしょう。このことで、開発部門は大きな自信をつけ、研究部門では自前の降圧薬をつくる基盤ができたように思います。」
「カプトプリルの後継品を1年以内に」
柳澤氏
当時、高血圧症治療薬の研究において、レニン・アンジテオンシン(RA)系は研究者に冷ややかな態度で見られていました。そのような中で、カプトプリルの成功はRA系に対する認識を一変させた画期的なものでした。ただ、カプトプリルにはふたつの弱点がありました。ひとつは作用持続が短いこと、そしてもうひとつは排泄経路が腎臓のみであったこと。
このひとつめの弱点を改良し、1日1回の投与で効果を発揮できるようにしたのが、メルク社のエナラプリルでした。
- 柳澤:
- 「カプトプリルを発売したころにはすでに、エナラプリルの臨床試験が行われており、わが社でもエナラプリルを超えるACE阻害薬を開発する必要に迫られていました。その頃、私は抗生物質の研究をしていましたが突然、当時の化学研究所の中尾所長に呼び出され『カプトプリルの後継品をつくれないか。できれば1年以内で見つけて欲しい』と言われました。私は研究を承諾しましたが、それは成功への自信というより『やってみよう』という気持ちが勝っていたと思います。エナラプリルより強く、カプトプリルやエナラプリルのふたつめの弱点である腎臓だけによる排泄経路を、肝臓・腎臓の双方から排泄されるデュアル経路にすることを目指し、研究をはじめました。そのときに初めて薬理の小池とチームを組むことになり、以降ずっと一緒に研究開発を行っていくことになったのです。」
通勤電車の中でひらめいたテモカプリル
カプトプリルの後継品として開発したのがテモカプリルです。この開発では、どのようにしたら強く持続的な降圧作用をもち、肝臓・腎臓の双方から排泄されるか、その方策を考えました。方策のひとつはエナラプリラートの分子構造の可動性を制限してACE活性中心に入りやすくして、しかも強く結合できる立体構造にすること、もうひとつは肝臓からの排泄が可能になるよう疎水性を高めることです。
- 柳澤:
- 「そのころは何かよいアイデアがないか、絶えず思いを巡らせていました。そんなある日、通勤電車の中で不意に『こうすればよいのでは』と化学構造がひらめきました。それは阻害薬の構造を環状にすることと、環に疎水性の置換基をつけた構造でした。この発想でいくつもの化合物を作り、最もすぐれた性質をもっていたのがテモカプリルです。テモカプリルは作用が強いだけではなく、他のACE阻害薬とは異なり、肝臓・腎臓のふたつの経路から排出されるようになったのです。約束のほぼ1年で見つけることができ、研究開発に自信を持つことができました。」
- 小池:
- 「テモカプリルは、第一三共が独自に海外での臨床試験を行った最初の事例にもなりました。カプトプリルとテモカプリルで培った多くの経験が、次のオルメテック開発の土壌を作り上げていくことになったのだと思います。」










