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第一三共グループに求められるCSRへの取り組み

各界でご活躍中の有識者をお招きして、関連する業務に携わっている社員との「有識者ダイアログ」を開催し、「第一三共ならではのCSR」について、各部門長を中心とした社員との意見交換を行いました。
いただいた多くの貴重なアドバイスを今後の企業活動に活かしていきます。

開催概要(役職などは開催当時のもの)

日時
2013年3月25日(月)13:30 ~16:30
有識者出席者
足達 英一郎様
株式会社 日本総合研究所
理事 ESGリサーチセンター長
渋谷 健司様
東京大学大学院医学系研究科
国際保健政策教室 教授
黒田 かをり様
一般財団法人CSOネットワーク
事務局長・理事
福島 隆史様
株式会社サステナビリティ会計事務所
代表取締役 公認会計士
場所
第一三共株式会社 本社 会議室
第一三共株式会社出席者
法務・CSR 本部長 高野 芳一
経営戦略部 奥澤 宏幸
知的財産部 田中 剛
人事部 加村 典正
総務・調達部 渡邊 亮一
ワクチン事業部 佐藤 裕久
研究開発企画部 赤羽 浩一
サプライチェーン企画部 本田 博志
ASCAカンパニー 事業企画部 橋本 千春
CSR 部 與五澤 克行
金田 豊正
土橋 重望
清水 和成

開催にあたって

與五澤
社会の変化がますます激しくなっていること、また当社の事業のグローバル化と多様化、2013年度から第3期の中期経営計画が始まることに鑑み、より主体的な社会要請への対応が必要であると認識しています。
出席の皆さまから今後の社会変化をご教授いただき、その上で当社が取り組んでいくべき方向性をこのダイアログを足がかりにして社内で共有したいと考えております。

グローバルCSR

本業そのものによる貢献のみならず、これまでの認識を変更することで社会的課題解決を。(足達氏)

足達様
CSR の理解はそれぞれの国の社会的背景のもとでなされるため、国や地域によって様々です。また、事業が益々グローバル化していく中で、企業を取り巻くステークホルダーも多様になっています。政府だけでは対応できない社会的課題解決に向けて企業への期待の高まりもますます大きくなっています。これまでの延長線上にある「本業そのものによる貢献」のみならず、これまでの本業のやり方を変更することや、社会的課題解決をキーワードに潜在的な顧客ニーズを掘り起こしていく、という新たな考え方がCSR の新しい潮流となりつつあります。御社では、昨今のグローバル経営でどんな変化を強く感じておられますか?
奥澤
事業計画を策定する上での多様性が一気に拡大したと実感しています。2013 年度を初年度とする第3 期中期経営計画を本年3 月に発表しましたが、過去2 回の中期経営計画と比べ、ランバクシーグループとの協業が鮮明になり、当社の投資活動、リターンを得ていく地域が東欧やアフリカ、中南米にも広がりを見せ、成長ドライバーとしての位置づけが明確になりました。また、第3 期中期経営計画の策定プロセスを推進したシニアマネジメントも約三分の一は米国、欧州、インドなど海外メンバーで構成され、多様な視点から出てきた意見・提言に基づいた想像以上に深み、重みのある計画となっています。ダイバーシティの拡大とそのインテグレーションがこれからのグローバル経営の重要な要素となると感じています。
足達様
CSR においても、グローバル化が進んでいくなかでの鍵は、ダイバーシティとインクルージョン※1であると言われています。ビジネスを行う領域や地域を考慮すべきことは当然であり、労働や人権などの課題もダイバーシティとインクルージョンという視点から捉えることが有効でしょう。
  • ※1 多様な人々が対等に関わりあいながら一体化している状態を指す

グローバルヘルス

途上国のニーズに合わせて新しいビジネスモデルを一緒に作り上げ、win-winの構築を。(渋谷氏)

渋谷様
製薬企業の大きなキーワードであるグローバルヘルス※2の動向についてお話します。まず、医療のグローバル化は急速に進展、二極化していて、お金のある人は国境を越えてより良い医療を受けられるようになる一方、最低限の医療さえ受けられない人々もまだ世界には多くいます。また、近年WHO(世界保健機関)などの国際機関の力が相対的に低下し、受け皿としての官民連携の推進、スケール感を持つ民間セクターや財団の活動が活発化してきています。今後求められる新しいグローバルヘルスは、途上国側のニーズに合わせて、現地の方法とリソースを活用しながら新しいビジネスモデルを一緒に作り上げ、win-win を構築していくものです。研究開発から物流までの間で、誰がどこでどのような役割を果たすのか、サプライチェーンまで含めた本業の一環としての大きな戦略・ビジネスモデルを作っていくことが重要です。
  • ※2 国境の枠を越えた健康や保健医療に関する課題
橋本
グローバルヘルスの主な対象国であるアジアや中南米の当社グループ会社では、現地のニーズに即したCSR 活動を独自に展開し、国連グローバル・コンパクトに自ら参加している会社もあります。しかしながら、国境を越えたグローバルヘルスへの取り組みとなると、現在は各国で個別のCSR 活動を行っている状況であり、全体としての統一した取り組みを行っていくのは今後の課題であると認識しています。
田中
特許の取得にはとてもお金がかかるため、出願する国は限られているのが現状です。Access to Medicine(医薬品へのアクセス)の視点からで考えると、出願している国に関しては、非排他的ライセンスなどの様々な施策を今後考えていく余地はあります。一方で出願していない国へは異なるアプローチで取り組むことが必要です。
渋谷様
そうですね。そういった地域に関しては、例えば国際機関だけに任せるのではなく、官民連携型のアライアンスでサポートすることも効果的です。最新の情報を得るためにも、多様なステークホルダーが集まり、国際保健戦略が議論されている現場に行っていただくと、動きもわかる、勉強になる、将来のビジネスへの布石にもなるのでお薦めします。また、途上国においては急速に生活習慣病が増えていることもあり、日本製薬工業協会では、グローバルヘルスの生活習慣病対策と偽造医薬品対策という、2 つのグローバルヘルスの動向を左右するワーキンググループを立ち上げました。今後のプロセスに期待しています。
足達様
途上国でも関心が感染症対策から生活習慣病対策に移っているとのお話がでましたが、新たに研究開発をスタートする際には、世界の疾病構造をどのように分析して、優先度を決められるのですか?
赤羽
これまでは、いわゆる先進国の疾病分布を見て研究することが一般的でしたが、当社はグローバルに研究所を有していることもあり、世界でどういうアンメットメディカルニーズがあるのかを調査し、困っている多くの患者さんのために薬を作っていく方向にシフトしてきています。また、デュシェンヌ型筋ジストロフィー核酸医薬の開発などの希少疾病について、社内ではどうしても優先度は下がるのでなかなか歩みが遅かったのですが、社外のファンドの協力を得てリスクを軽減することにより、困っている患者さんのお役に立ちたいと思っています。日々の企業活動がCSR にこれほど密接に関連しているのだという認識を改めて感じました。
足達様
ワクチンは天然痘の根絶成功以来、グローバルヘルスにおける感染症対策として大きな役割を期待され続けています。御社のワクチン事業はこの数年で大きな変貌を遂げているように見えますが、これからの事業展望についてお伺いできますか。
佐藤
ワクチン事業は、病気を治療する際の医療費を未然に抑えるという予防の点で、グローバルヘルスへの大きな貢献だと思っています。私たちのワクチン事業は、一つの形として緒に就いたばかりであり、まずは国内で足場を固めて持続的に継続できる事業になってから、グローバルに貢献できるシーズを今後作っていかなければならないと思っています。ただ薬を出せばいいわけではなく、製造、物流を経て患者さんのもとに届けるまでには社会インフラが必要でコストもかかるため、現地の政府と資金調達の仕組みを作っていくことも求められます。また接種する機会や場所も整えないといけないため、製薬メーカーだけでなく、ワクチンを届けるためのステークホルダーとうまく協働していく必要があります。

人権・労働慣行

自社だけでなくサプライチェーンの中で、責任あるビジネス行動へのコミットメントを。(黒田氏)

黒田様
私の方からは、人権と労働慣行についてお話させていただきます。これまで日本企業における人権問題といえば、ハラスメントや差別など限られたものでしたが、実際の人権課題というのは本当に範囲が広いというのが特徴として挙げられます。また、ここ数年来、人権というのはCSR の主流として多くの議論がなされています。では、実際にどのようにして取り組んでいくかというと、自分たちの企業活動や意思決定が人権侵害を引き起こしているかもしれないことを「知ることと示すこと」として、人権デューディリジェンスが重要となってきます。しかし、企業が環境や社会、経済に与える最大の影響は、サプライチェーンにおいて起きています。そのため、責任あるビジネス行動へのコミットメントを、自社だけでなくサプライチェーンの中で実施することが重要になってきます。
事業がグローバル化する中、サプライチェーンもそれに伴い多様化、複雑化、長大化しています。
渡辺
確かに日々調達業務を行っていて感じることの一つとして、課題認識と解決へのコミットメントの共有、徹底の難しさがあります。これは決して開発途上国特有の問題ではなく、先進国でも起こりうる問題であると認識しています。私たちの考え方がビジネスパートナーを通して、きちんと現場まで伝わっているのか、把握するのさえ難しいと感じることがあります。これからの責任あるビジネス行動のために重要な取り組みであると認識しており、当社はCSR 調達基準を定め、活動をスタートしたところです。
本田
国内でのサプライチェーンの取り組みとして、取引先185社へCSR の意識調査をしています。意識レベルが低いサプライヤーに対しては、パートナーシップの下に指導や、パフォーマンスレベルをあげる取り組みをしていこうと動き出しているところです。PDCA を回していくレベルに達するまでは、まだある程度の年月がかかりそうですが、まずは国内でCSR の取り組みを進めています。グローバルな観点からは、機能面で協議を始め、ランバクシーとサプライヤー情報の交換を含めて協議をしています。サプライヤーに対して、一次原料だけでなく源流まで遡っていく必要があると理解しているのですが、買い手としてはどこまで関わるべきなのか、とても難しい問題です。
黒田様
そうですね、多くあるサプライヤーの中では、一次サプライヤーまでが現実的なのでしょう。二次サプライヤー以降に対して全てに何かをするというのは、なかなかハードルが高いとは思いますが、予防が必要となってきますので、潜在的なリスクを測るには何をしたら良いのかをきちんと方針を持って決めておくべきです。例えば、その地域で活躍するNGO などをステークホルダーとしてコミュニケーションをとったり、第三者から批判があった時に、すぐに対応する姿勢が重要だと思います。総従業員数の半分をランバクシーが占めている中で、ランバクシー自身が持っているCSR やサプライヤー方針が、貴社のそれとどこまで整合性が取れているのか。そういった部分をレポートで記載できると良いと思います。
足達様
ところで、グローバルに展開している御社では社員のダイバーシティをどのように拡大させているのでしょうか。一般的に日本ではダイバーシティというと主に男女で捉えられていますが、海外では人種、国籍、宗教によるダイバーシティなどさまざまなダイバーシティがあります。
加村
ダイバーシティに関しては、人材マネジメントにおける課題の一つとして、整理、議論をしてきていますが、日本におけるダイバーシティはまだ性別や年齢、定年などに留まっているのが現状です。おっしゃるようにマイノリティや宗教など、海外でいうダイバーシティにはなかなか考えや理解がおよばず、海外の人事担当者とのその部分での交流がこれからの課題です。また、本社のグローバル化・ダイバーシティも重要な課題と認識しており、海外グループ会社から日本への駐在者を増やす取り組みを進めていきます。
赤羽
男女の課題で言うと、インドの研究会社に行った時に国際女性デーがあったのですが、会社をあげてお祝いをしていました。研究者の半分は女性ですし、テレビ会議の際、インドの女性に「向こうに見えるのは男の人ばかりですね」とも言われたこともあります。社内でも女性の活躍推進など、いろいろな活動はしていますが、なかなか進まないのが実態です。
黒田様
国際女性デーは、世界的には重要な日なのに、日本オフィスでは特にアクションがないとのこと、来年はぜひ、日本でも取り上げられてはいかがですか。女性の管理職が少ないことは世界的に言われていることですし、ある程度抜本的にやらないと進まないと感じています。また、御社の2012年のCSRレポートで記載されているアメリカでのメンタープログラムなど、他の国で効果的なものを日本でも率先的に取り組まれると良いのではないでしょうか。
足達様
製薬会社ならではの課題として、臨床試験における人権配慮や動物実験などに関してはいかがですか?
赤羽
臨床試験においては、現在は開発をするときにバイオマーカー※3を使って個別化医療※4に特化して行うことでメリットのない患者さんには投与しないという方針を出してますので、患者さんの保護を最優先に考えています。動物実験についても代替法に取り組んでおり、ヒト由来のiPS 細胞をツールとして随分と活用するようになっています。今後もより高い倫理的価値観を持ってさらに取り組みを進めていきたいと思っています。
  • ※3 血清や尿などの体液および組織に含まれる生体由来の物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標となり、その量を測定することで疾病の診断や効率的な治療法の確立、個別化医療が可能となる
  • ※4 患者さんそれぞれの遺伝的背景・生理的状態・疾患の状態などを考慮して、患者さん個々に最適な治療法を設定する医療

環境

経営指標と連動し整合性のある、視野が広く本質を見極めた環境経営の実践を。(福島氏)

福島様
環境経営について、いくつかの視点で問題提起をさせていただきます。海外のSRI 評価機関などでは、CSR 経営に関して高評価を受けている日本企業の数が約10 年前と比べて3 分の1 ほどになってきています。過去は環境の評価枠が大きく、環境優等生の日本企業は全体としても高得点をもらえましたが、現在は環境枠自体の評価ボリュームが減っていることが原因の一つです。さらにスコープ3※5など求められる集計開示範囲が広がったため、集計精度を下げざるを得ないことについて真面目な日本企業が容認できず、集計範囲を従前のままとしていることに起因しているのではないでしょうか。しかしながら、集計精度は本質的な問題ではなく、どれだけ視野の広い取組みを実践できているかが問われている、ということだと思います。例えば、気候変動により自社の供給先にどのような影響が出るかを把握するなど、環境分野における戦略的なリスクとチャンスの見積もりをどれだけ認識しているか。そしてまた、経営指標として売上高などの目標を設定した際、同じ中計目標年度において、予想される環境負荷をどの程度低減するか、というのを環境目標として設定できている企業が本物の環境経営実践企業だと思います。また、医薬品やその分解物の環境側面について、製薬業を生業とする専門家としての見解や実態を発信してほしいと思います。
  • ※1 温室効果ガス排出量において、自社での電気、蒸気、熱の使用に伴う間接排出を除く、サプライチェーン全体での間接排出を対象とした範囲区分
清水
環境に関する集計項目や範囲の拡大が求められている背景には、当社自身に事業活動による環境への影響をより的確に把握し認識させる目的があると理解しています。ご指摘の通り、一方では精度維持とのジレンマがありますが、限られた情報の中で、事業計画と環境配慮のより適切な統合について引き続き取り組みたいと考えます。また、医薬品やその分解物の環境への影響ですが、これが生態系や人の健康に悪影響を及ぼすようなレベルに達しているかの否かの見極めは、まだ科学的な知見が十分に得られていないというのが現状であり課題であると認識しています。当社のみでの対応が難しい部分については、行政、アカデミア、業界団体との連携など新しいアプローチにて検討したいと考えています。
福島様
売上高で上位にいる企業は、CSR の評価面でも上位にいてほしいと思います。特に日本企業がCSR 面でも上位に位置するためには環境面での評価上の復権が必要です。スコープ3 のような範囲拡大に対応しつつ、本質を見極めた環境経営を着実に推進していただきたい。御社にはぜひ、医薬品産業における環境経営でもリーダーシップを示していただきたいと思います。

まとめ

足達様
御社のCSR の道標になるものとして、3 つのキーワードでまとめさせて頂きます。

1本業のグローバル化に沿った形でCSR 活動も推進していくこと 2自発的なイニシアチブなどこちらからしかけていくこと 3社員への普及活動を強化していくこと

まず一つ目に、製品や研究開発などがグローバル化している一方、グローバルCSR はまだこれからの領域という部分がたくさんあると改めて感じました。本業の競争力を、レピュテーションが毀損させることがないようグローバルCSR 活動を強化していただくことが重要です。
次に、CSR 活動について、こちら側から仕掛けていくことが重要です。具体的には、希少疾病やワクチンに関する分野での取り組みがあるでしょう。国際機関の役割が相対的に低下傾向にある中、御社の方から「こういう領域はうちで引き受けますよ」というメッセージをいくつも出せるのではないでしょうか。そこをうまく束ねて情報発信をされていくと、いろいろな形で相乗効果が生まれてくるのではないかと思います。最後に挙げられるのは、社員への普及活動です。グローバルファーマと呼ばれる企業がなぜCSR に熱心に取り組み、情報発信をするのか。特にグローバルで事業を展開する場合には、企業の評判を守り高める必要が「本業そのものによる社会への貢献」以外にあり、CSR はおまけという話ではないという認識を、いかに社員一人ひとりが受け止められるか。そのための普及活動が必要だと思いますし、これからの課題であると拝察しました。

高野
出席した参加者にとっても、事業とCSR という観点、異なる切り口からの有識者の方々からのご発言に対して納得感が得られたと思います。経営戦略としてのCSR、事業とCSR は車の両輪ではなく、車全体なのだという認識を新たにしました。時代とともに変わるステークホルダーの要請に応えていくことが事業でありCSR でもあります。第一三共として初めてこのようなダイアログを実施し、変わっていかなければいけない時期に来ていると改めて思いました。今、まとめていただいた3 点について、今後の課題として取り組んでいきます。

第一三共株式会社