DoctorQ 専門医に聞く最新医療企画 胃がんは早期発見がカギ ~定期的な検診受診の重要性と最近の治療法~

今日のポイント ■ 早期であるほど治る可能性が高い ■ 初期症状はなく定期的な検診が重要 ■ 負担の少ない手術や新たな薬が登場

東京大学医科学研究所附属病院 腫瘍・総合内科 教授
朴 成和先生

[プロフィール]
1987年東京大学医学部卒業、92年国立がん研究センター東病院、2002年静岡県立静岡がんセンター消化器内科部長、10年聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授、15年国立がん研究センター中央病院消化管内科長(副院長 兼任)、患者サポート研究開発センター長、21年より現職。日本胃癌学会監事兼Patient Advocacy委員会委員長。

最近は体への負担が少ない手術や新しいタイプの治療薬が登場するなど、胃がんの治療法は進歩しています。 胃がんは早期に発見されるほど治る可能性が高くなりますが、初期にはほとんど自覚症状がないため、定期的に検診を受けることが大切です。
今回は、胃がんの早期発見の重要性やそのポイント、最近の治療法などについて、朴先生にお話を伺いました。

Q日本人の胃がんは増えているのでしょうか?高齢化の影響で高齢者の胃がんが増加。男性に多く、特に50歳代から急増する

日本では、2019年に約12.4万人(男性約8.5万人、女性約3.9万人)が胃がんと診断され、部位別に見ると男性では前立腺がん、大腸がんに次ぐ第3位、女性は乳がん、大腸がん、肺がんに次いで第4位の患者数となっています※1

胃がん年齢階級別罹患率(2019年) 50代から急増

胃がんにかかった患者さんの年齢層を見てみると、男女ともに50歳を超えた頃から急増していることがわかります※1。人口高齢化の影響により、高齢で胃がんにかかる患者さんの数が増えていますが、ここ数年間、日本の胃がん患者さんの数は全体では横ばい傾向です。一方、胃がんによる死亡者数は減少しています※1。その理由としては、早期に診断される患者さんが増えたことや治療技術が進歩したことで、胃がんが完治したり進行が抑えられたりするケースが増えたことなどが考えられます。

Q胃がんの治療について教えてください体に負担の少ない内視鏡治療や手術、分子標的薬ほか新しい薬物療法が登場

胃がん治療の流れ 早期胃がん:内視鏡治療、腹腔鏡下手術(ロボット支援手術) 進行胃がん:開腹手術、腹腔鏡下手術(ロボット支援手術)+薬物療法、薬物療法(殺細胞性抗がん薬・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬)、放射線療法

胃がんの治療方針は、病期(ステージⅠ~Ⅳ期)に応じて選択されます。胃がんは、胃の壁(胃壁)の内側をおおう粘膜に発生するがんで、進行するに従って胃壁を内側から外側へと進み、さらに進行すると胃壁を越えて周囲のリンパ節や他の臓器へも転移します。病期はがんの進み具合について分類したもので、がんが胃壁に潜り込んでいる程度とリンパ節や他の臓器への転移の状態などから判定されます。がんが粘膜層内または粘膜下層にとどまっている「早期胃がん」では、転移の可能性が低く、病変を適切に切除することにより完治する可能性が高いとされています。一方、「進行胃がん」はがんが固有筋層まで達しているか、固有筋層を越えて浸潤しており、リンパ節や他臓器への転移の頻度が高い状態です。
胃がんの治療は、病期に応じた標準治療を基本とし、患者さんの希望、年齢、体の状態、生活環境などを総合的に判断しながら決定します。早期胃がんであれば、体への負担が少なく胃の機能も維持できる内視鏡治療や、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術による切除が標準治療となります。進行胃がんの場合は、手術と薬物療法が標準治療となりますが、手術ができない、または手術後に再発した場合などは薬物療法が中心となります。薬物療法については、従来の抗がん薬(殺細胞性抗がん薬)に加えて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が登場し、治療法が進歩しています。

近年、がんの原因となっている分子や遺伝子などを特定し、これを標的にがんを攻撃するといった薬物療法が行われるようになっています。この場合、まず分子や遺伝子を検査することで、“薬が効きそうかどうか”を判断します。たとえば、一部の胃がん患者さんでは、がん細胞の表面にHER2(ハーツー)というたんぱく質が発現し、がん細胞の増殖に関わっています。このようなHER2陽性胃がんに対しては、HER2を標的とした分子標的薬が選択されます。

Q胃がんにならないために(予防と検査) 禁煙、減塩、ヘリコバクター・ピロリ除菌などの予防と検診による早期発見が重要

胃がんを予防するためには、禁煙すること、塩分や高塩分食品の取りすぎに注意すること、ヘリコバクター・ピロリの除菌などが有効です。
また、胃がんは早期に発見して治療を開始することが重要です。国立がん研究センターの統計によると、胃がんの5年生存率は全体では70.2%ですが、病期別ではステージⅠで92.8%。Ⅱで67.2%。Ⅲで41.3%。Ⅳでは6.3%と報告されています※2。特に、胃がんは早期に見つけることができれば、体への負担が少ない内視鏡治療によって5年生存率が95%以上と、ほぼ治るがんであると言えます。
胃がんは初期段階では自覚症状がほとんどないため、早期がんの多くはがん検診によって見つかっています。そのため、厚生労働省は胃がん検診として、50歳以上を対象に「胃部エックス線検査(バリウム検査)」※3もしくは「胃内視鏡検査(胃カメラ)」を2年に1回受けることを推奨しています。また、胃の不快感、吐き気、腹部膨満などの気になる消化器症状がある場合は、かかりつけ医などに相談してください。

※1: 国立がん研究センター がん情報サービス 「がん種別統計情報 胃」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/5_stomach.html
※2: 国立がん研究センター がん情報サービス 「 院内がん登録生存率集計」
https://hbcr-survival.ganjoho.jp
※3: 当分の間、40歳以上に対して年1回実施可

企画・制作 朝日新聞社メディア事業本部
2024年1月27日掲載

他の疾患啓発も見る

to Page Top